- 作者: 難波功士
- 出版社/メーカー: 人文書院
- 発売日: 2013/02/20
- メディア: 単行本
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さて、目次に目を通す。各章「都市社会学ウシジマくん」、「家族社会学ウシジマくん」、「教育社会学ウシジマくん」……とある。なるほど、『闇金ウシジマくん』を一つの視点から切り取るのではなく、その作品世界をさまざまな社会学の趣向から切っていくわけね、と思う。
して、「はじめに」を読み始めておれはヤバいことに気づいた。エピソード一覧が載っているのだが、半分以上読んでねえ! 具体的には「タクシードライバーくん」編までしか持ってねえの! そうだ、おれの中では、勝手に「取材協力:おれ」じゃねえのかと思うような「フリーターくん」編でテンションが最高になって、それからしばらく買ってなかったんだった。
※衝撃ゆえ内容はないな、われながら。
で、そうと気づいたおれは漫画喫茶に行ってフリータイム1200くらい払って残りを一気に読んだ。買わないのか? と(以下略)。薄暗く、染み込んだ煙草の臭い(気づくのは部屋に帰ってからなんだけど)、そんな漫画喫茶の中に似合うぜ、つくづく。で、知らぬ間に歯を食いしばっていたらしく、なんか今痛えし。
で、ようやく「洗脳くん」編まで読み終えて(「洗脳くん」は社会学というより『冷たい熱帯魚』学案件かもしれないが。え、そんな学あんの? 学部あんの? ねえよ)、本書に帰ってきた。脳の中はウシジマくんで新鮮だし、本も一気に読んだ。適当に気になったところをメモしておく。
都市社会学ウシジマくん
ウシジマくんの舞台となる(と予想される)場所からの考察。おそらくウシジマくんが地元としていたのは東京の東の方ではないかと。いや、そういう「謎本」ではないのだけれど。だって東京23区の経済格差の表やら地図(橋本健二『階級都市』からの引用)だって出てくるし。そう、おれは鎌倉育ち横浜在住だからよくわからないが、東京右半分ってやつなんだろ。- 作者: 都築響一
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
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で、それはともかくとして、「下町と団地」、「郊外の殺伐」(おれの好きなやつ)、「ストリートの虚無」、「再開発(ジェントリフィケーション)の風景」……と、ウシジマくんをベースに都市とは何ぞや、郊外とはなんぞやというような話が繰り広げられる。そうだ、『ウシジマくん』に出てくる人物の背景の、そのまた背景にいる人物や家族について語られる一言二言の情況。そこがこの漫画を厚いものとしている。おれはそう思う。……とか言いつつ、実際に団地育ち、下町育ち、あるいは高級住宅街育ちじゃない人間が、どこまでそれをわかったような顔をしていられるのかというのか、という気持ちもある。あるいは、鎌倉という中途半端な田舎者のおれが抱く「都会としての」国道沿いに対する憧れを人に理解してもらうのはむつかしいかもしれない。
家族社会学ウシジマくん
どっかの政党は「あるべき家族像」にすがりついているようだが、もうそんなものは幻にすぎねえだろ、とかいう冬。ウシジマくん世界の住人たちの多くが「ポスト近代家族」を生きる人々であるという指摘。かつて、一瞬だけあった家族像から外れて生きることの難しさ(現代の抑うつの原因を「血縁者の支援ネットワーク弱くなり、それにともなって心理的・物質的安全が得にくくなったこと」に求める研究者もいいるらしいし……ってこれは昨日読んだ進化心理学の本から)。借金から一家離散したおれにもわからないではない。周りにだって離婚の話なんて普通に転がっている。が、『ウシジマくん』を読んでいる人なら知っての通り、「フリーターくん」編にしろ、ある種の家族の再生が描かれている。家族、あるいは社稷(おれは言うことが古い)が次世代のセーフティ・ネットになるやらならんやら。
教育社会学ウシジマくん
その人の出自にとらわれずに、個々人の能力を伸ばしていくことで、身分の垣根を流動化してきたはずの教育や学校。しかし、いまやそれらが、地位や経済的威信の固定化・世襲化を促しているのではないでしょうか。
p.96
ということで、文化的資本の負の連鎖みてえのはあるぜ、というお話。それと、学力以外の道として「ASUC職業」というものがあってというあたりは、その手の本をあたってみるかと。いずれにせよ、もう学生でもなければ、子供を持つこともないであろうおれには縁のない話なのだけれど。
感情社会学ウシジマくん
牧野智和『自己啓発の時代―「自己」の文化社会学的探求』(勁草書房、2012年)など最近の研究は、個々人の心の持ちようを変えればすべてがうまくいくなど、社会の多くの問題を心のあり方に還元するような、社会の「心理学化」、「心理主義化」が急速に進んでいることを指摘します。
(P.156)
「感情社会学」という言葉は初見だった。が、「感情労働」という言葉を見ればなんとなく予想もつく。して、上に引用した部分。今は自己啓発の時代。自分の心と向き合って調和すれば東電はプリントアウトという傾向が強まってはいないかということだ。このあたりは「再帰性」というキーワードが出てきてたまに目にするのだけれど、この単語に馴染むにはまだ勉強が足りない。
社会病理社会学ウシジマくん
社会病理学の中から「非行」について。なぜ少年犯罪が凶悪化していると「思われている」かについて、土井隆義『少年犯罪<現象>のパラドクス』という本でこういう指摘がなされているという。同書は少年犯罪減少の社会的背景を探ろうとするものですが、ウシジマくんとの関係でいうと、この本の最大のポイントは、非行集団の紐帯が緩む一方だという指摘です。
p.194
そのあとに指摘されているとおり、「ヤミ金」くんに出てくる暴走族は確かにイマドキ感が少ない。石塚とかは典型的な地元のヤンキー(の行く末)のようだが、今風ではない。暴走族? そんな話どっかで最近読んだな。
んで、本書の著作にこんなのあるんだけど、今度読もう。
- 作者: 難波功士
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- 作者: 難波功士
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……っと、そろそろ寝る時間だ。あんまり引用してないけど、本書は『ウシジマくん』に満ち溢れているし、読んでいて「ヘコー、ヘコー」ってなる感じ、おれの場合漫画とぶっ続けで読んだから「落ちる」感じもあったわ。そして、その上に、社会学にはこれこれこういう切り口があって、入門の文献、最新研究の文献いうたらこのあたりだよってのがえらく充実してて、実に手がかりになる本だ。悪くない。しかも、紹介されている本も新しいものばかりで、興味をそそられる。
って、おれはなんで興味を持つのかな? 好奇心? よりももうちょっと切実ななにかがある。まあ、大雑把に言えば「おれはどこから来て、どこへ行くのか」というところを知りたい。「おれは社会のどこにどう属してどう見られているのか、どう振る舞うべきなのか」、それも気になる。まあ、そういう何かだ。そして、おれの階層に見合ったものでニギニギしているのは『ウシジマくん』あたりであって、これはおれにとってよい本であったといえる。そんなところで、おしまい。
>゜))彡>゜))彡>゜))彡
闇金ウシジマくん コミック 1-28巻セット (ビッグコミックス)
- 作者: 真鍋昌平
- 出版社/メーカー: 小学館
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