あまりにも美しいお迎え〜『かぐや姫の物語』〜


 ネタバレから書きますけど、かぐや姫は月に帰るわけです。それも、博物館に動態展示されているロケットを使ったりしない。向こうから来る。お迎えがくるわけですね。自力じゃあない。ともかく、ぼくが何を言いたいのかというと、このお迎えのシーンがあまりにもすばらしすぎて、浮かぶ魚の目に涙、こんな完璧な来迎のようなものを目にできるとは! という、そう、そこでシャランシャランと流れる音楽もいっぺんの曇りなく清浄でこの世のものとも思えず、正直言ってまったく覚えていないのですよ。ものすごくすばらしすぎて、圧倒されてしまって、メロディもなにも出てこない。こんなことってありますか。まあ、サントラを買えばいいのでしょうが、これは強烈な体験でした。
 ……などと書くと、そのクライマックスのみがすばらしく、あとは貶すパターンかと思われるかもしれません。でも、そんなことないのですね。ぼくはいしいひさいち信者で、『ホーホケキョ となりの山田くん』は絶対に認めねえぞってところがあったんですが、そんなことはもうどうでもいいです。高畑勲監督はすごいです。いや、本当に正直、この作品、いろいろの批評、感想を読んだ上で(「かぐや姫」にネタバレもねえだろうと)行ったんですが、それでも行き足が鈍った理由は、アニメーションの手法、時間と金のかかる手法ばかり見せつけられるんじゃないかっていう、そういう不安なのですね。要するに、ゲージュツ的なあまりサービス精神のない本来ならショートフィルムでいいようなものを、長々と見せつけられるんじゃなかって。
 でも、そんなこたねえんです。赤ん坊は赤ん坊らしく、子どもは子どもらしく動き、その背景にはコブシの花、アケビ、ヤマグワ……里山の自然が自然にありって、まあそのあたりは予想通りなんですけど、意外といっては失礼か、物語にも引き込まれるところがあって、時間がたつのも忘れると言っちゃっていいんじゃないかってくらいなわけです。
 それにやっぱ、声の配役なんかもびったり決まってたなって。ちなみに、地井武男三宅裕司はぜんぜんどこかわかんなかったですね。それもすごい。あと、伊集院光出てるの知らなかったですね。
 それで、物語がどうだったかというところなんですが、やっぱり仏教的な見方になっちゃいますかね。少なくとも、月の裏側からナチスが攻めてくるみたいな話じゃないです。まあ、仏教にもいろいろの方便があって、どこで覚えたのか忘れましたが、六道のうちの天道、こっから人道に堕ちてきたお姫さまのお話と、こういうところですかね。小さいころ、そうだ、小学校で理科の時間、おばあさんに近い先生が、なんでか知らないけど「悪いことをすると地獄におちて酷い目に遭う」みたいな絵本で道徳教育しやがったことあったんですが、そこで紹介される天国ってやつは、ちょっとでも悪いことを考えるとたちまち地獄に落とされるみたいなもんでして。それで、子供心にもそんな天国は御免だ、たとい四苦八苦あろうが人間界がマシだみたいな感想を抱くわけです。
 この映画も、全体のテイストとしてはそういうとこなんじゃねえかというね。面白くなく、清浄すぎる月世界より、ある面で修羅の道である人間世界をね、話としては肯定している。でも、主人公のかぐや姫は肯定されない。その人間世界の苦しみに音を上げる。天道と人道、ともに生きる道が生まれるでもなく、また、人道において幸せを掴みとることもなく。まあ、あたくしゃ禅と浄土真宗の方に興味があるのでようわからんのですが。それに、人の世といいますか、地球を描くのであれば、食物連鎖の残酷さというものをもっと出してもよかったのかもしれませんが、作品のテイストというものもありましょうし。
 でもまあ、それじゃあ美しいかぐや姫に救いがない。なさすぎる、というわけで捨丸との夢があり、あの美しいお迎えが用意されているというあたりで、ひとつ納得してくれないかという。そういう悲劇、なんですかね。作り手の慈悲かなにか。このあたりはよくわかりません。わからなくとも、この上なく美しいお迎えがやってくる。そういう話なんです、ぼくにとっては。

>゜))彡>゜))彡>゜))彡

……月から何か来る話です。

……『風立ちぬ』とどっちよ? と言われたら、うーん、悩みます。どっちもどっちというか、比べられないですね。

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……あれ、これの感想文みあたらない。DVD持ってるんだぜ。まあいいや。ちょっとラスト『死者の書』思い出したり。

……これは欲しい。