35歳

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人の背は死ぬまで伸び続けない。伸び続ければ……目安になる。100歳で死ぬやつの身長は200cmくらいになる……悪くない、棺桶や霊柩車のサイズは考えなおす必要がある。

35歳になって、こいつは区切りの年だと思った……20歳のときも30歳のときもそんな思いはしなかった。現実的にいえば、もう、おれは職を失って、あといくつかの条件を満たしたところでニートじゃなくなる……無職中年だ。しらべる気もしないが……若者のための扶助を受けられる年齢じゃあないってことだ。もとより……なにかに期待したりしちゃいねえつもりだったが……終わりが始まったってことだ。野垂れ死ね、ダンボールにも雪は降る、外は寒い……。

傲岸で不遜な35歳。なにもわきまえちゃいねえ、しらねえことだらけだ。一丁前のなにもなしに、まだなにかあるんじゃねえかって……ちくしょう、なにも積み重ねてこなかったじゃねえか。20代のおおよそは日銭を稼ぐだけで……ようやく食って……べつに背が伸びたりしなかった。歳相応の金もゆとりも人間関係もない35歳。頼るべき血縁もございません、ときたもんだ。光り輝く無能を引っさげて、中年世界の辺境……底辺を這いずりまわって……。セーブポイントまで戻れねえ、このゲームは腐ってる。

なんにも変わっちゃいねえ、ただ頭ばかりは悪くなっている気はしている……老いがきている。精神の老い……逆に、恥や外聞を捨てられたら……むしろおれにはそっちの方がいいのかもしれないが。万歳! これがおれだ! って……どっかの広場で大演説、そうさ必要なのはスマイルだよ、ダブルで、トリプルで、スマイルが必要なんだ。

くそったれが、おれは裸踊りがしたいのか……そんなものはもう卒業だ、人生から、結婚から……おれは独身だった。希死念慮から自殺企図へのバージョン・アップ……死んだら卒業できないから言ってやろう、低能未熟大学中退の後輩よ……死ねたやつは偉大だ、偉大なるデスリフだ……おれは、おれはリストカットする気力すらない……それに振り飛車で軽くさばくことだってできやしない、臆病に矢倉を組むんだ……組んで、駒組みが頂点に達して、無茶な仕掛けからごり押して……iPhoneの将棋アプリと一人で対峙してんだ、ずっと。

ようするにおれが言いたいことってのは、世の中にスマイルが足りないってことなんだ……世の中? そんなことは召使どもに任せておけばいい……そういうわけにもいかない。おれがおれを維持する理由……手段……目的? おれが身長250cmになって死ぬときに、脳裏を走るんだ、いつの日か青春があった、青春があったって、青春の影がするりと駆け抜けて……もう戻せない、リローンチもできない。人生の降下に加えて、加齢の降下もますます強まって……おれは降下猟兵か? MP44はどこだ? 素っ裸じゃねえの。

……辛いよなぁ、まったく辛い。ごくごく薬飲んで、それでごまかしの精神安定を得て……得られしねえんだよ、実際のところ……それでいったいおれになにをやらせようっていうんだ……だれが、いったい、おれに、なにを……。もう、時間がない、あったところでどうしようもない……わかってんだ、全部、わかってんだよ。