おれは社会復帰しなければならない

NHKでコミュニティソーシャルワーカーのドキュメンタリーをやっていたのをポケーっと見ていたら、おれも早くひきこもりの就労支援を受けなければ、週3日からの社会復帰を目指さなければと焦燥感に襲われた。おれは一応、正社員で会社に勤めている。一応、給料は出たり出なかったりする。有給休暇とかボーナスとかは知らないが。それなのに、おれは社会福祉の支援を受けて社会復帰する必要があると、そう思えて仕方なかった。そう思うと動悸が止まらず、薬を飲んだりした。夜は眠れなかった。

これは一度人生のエスカレーターから落ちてしまった人間の後遺症なのだろうか。それとも、今後の人生の先行き不透明さが語りかけることなのか。プレコグか。おそらく、どちらも。ともかく、おれは社会復帰しなくてはならない。おれは復帰してない。

ならば、おれはどこにいるのか? どこか社会の隙間のようなところでどうやって生えてきたかわからない草のように……。草にも草の事情があるが、いつ引っこ抜かれても、整地されちまっても文句はいえない。そんな場所で、古めかしいビルの壁から伝う水をちびちび吸って……。

陽の光を浴びたいと思う。陽光ビルの反射光じゃだめだ。直射日光だ。それを受けて堂々としたおれ。ああ、立派な社会人だという自覚が欲しい。年齢に見合ったこれこれこういうスキルがある、こういう仕事ができる、そういうものが欲しい。

だが、欲しいといっても努力はしたくない。それが嫌で昔ニートになったんだろ。全部、面倒くさいんだ。このやる気のなさというのがおれだった……。やる気がないので、という理由だけで社会福祉の協力を得られるのだろうか? 無理だろう。たぶん、自殺しかないのだろう。自殺なんて、職場のデスクの上を片付けるくらいしたくはないことなのだけれど。

というわけでおれは貧者の税金たるサマージャンボ宝くじを買った。おれのような人間に当たらないでだれに当たるべきだというのか。当選金でおれは奥湯河原に隠居する。きっと精神病も治るだろうし、薬も不要だ。高級だけれど感じのいい車を買おう。バイクの免許とってもいいかな。それで平日の134、晴れた日の134……あるいは真鶴半島に向かって走り出すんだ。悪くない。心配するべきことはなにもない。おれには6億円ある……。6億!