できればその前に笑えるガスを吸わせてくれ

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この事件について上司が「日本人も我慢がきかなくなってきたのかねえ」というようなことをのたまったので、おれは「我慢がきかないような人間なら就活ならとっくにやめてますよ。そうじゃないからストレスが溜まったんでしょう。自殺するしかないですね」と言った。

そういうおれは就活から(大学から)逃げたから就活の苦しさは知らない。ただ、おそらく20年くらい生きてきたていどの人間の心なんかは平気で殺すくらいの代物だろう。いや、20年くらい生きてきた「ある種の」人間だ。おれはたぶん「ある種の」だし、ひょっとしたらこの男子大学生もそうかもしれない。リア充慶大生がちょっと転びかけただけで、ウェーイ言いながらウキウキで卵を投げた可能性もあるが。

腰が90度くらいひん曲がった、カートを引いた寿町系らしき爺さんが、100円ローソンの店長に「カッパくださいな」と言った。顔なじみらしい店長は「レジの前にありますよ!」と指差した。見てみれば、その爺さんはすでにペラペラの100円ショップ雨ガッパを着ていた。寒くなったから、二重に着ようというのか。それにしたって、寒いだろう。二重にしたって寒いだろう。かといって、ほかに108円で寒さをしのぐ手段といってもあまり思いつかない。いつかおれもあのようになるのか、その前に死ぬのか。「自殺するしかないですね」。

シバガスとかいうのがあって、それが問題になっているとテレビのニュースでやっていた。Youtubeから引用された動画には、風船から気体を吸って急に笑い転げる男女の姿が映っていた。これがいかんという。人間、泣いているより笑っているほうがいい。笑い転げていればみんな仲良しだ。ダンスミュージックもあればいい。これで窒息死するんなら、それもいいじゃないか。この国は笑って死ぬことすら許さない。一億総火の玉となって、生涯奴隷として惨めに生きるしかない。笑うな、泣くな、サボるな、卵を投げるな、死ぬな。そんな無茶な。おれはジョン・ヘンリーでもないしスタハノフでもない。

急にカレーが食べたくなったので、ひさびさにすき家に入った。ブラック企業だのなんだの言われる前のすき家のカレーは好きだった。「あいがけ」にしなくても肉がたくさん入ってた。それが、スパイシーカレーだかなんだか名前が変わったら、なにかとても貧相でよくないものになってしまった。ブラック企業だのワンオペだのと関係あるのかは知らない。そして現在、近場でカレーを食うといったらすき家くらいしかないので、すき家に行った。ちょっと贅沢をして、けれどしかたなく「あいがけ」にした。するとどうだ、出てきたカレーは「あいがけ」が必要でない、昔のすき家のカレーじゃないか。こんなことだったら、「あいがけ」にしないで小銭を浮かせた方がよかったと思ったものだった。おれはあっという間に食い終わると、家路についた。帰るころにはちょうど小久保監督の勝利インタビューが行われているころだろうと思った。けれど、待っていたのは則本の快投と回跨ぎの悪魔と韓国の意地と継投策の失敗だった。ツイッターを眺めると、「今年のうちのチームみたいだ」といろいろなチームのファンが言っていた。「今年のカープみたいだ」。笑えない。

おれは卵があるとお好み焼きの生地にしてしまうので、空想の卵を投げる。塹壕の内側、擲弾兵のようにパンをかじって、スナップを効かさないで卵を投る。標的は不明、戦果も不明。そしておれは卵を無駄にした罪で死刑。早く殺してくれ、早く殺してくれ、できればその前に笑えるガスを吸わせてくれ。