『海にかかる霧』を観る

 おれのぼんやりした人類のグレートジャーニーを説明すると、日本人というのはアフリカから出てきて砂漠や高山に耐えられず、いろいろの人間に追い出されて、結局東の果ての島まで来て、これ以上いけないところで運良く豊葦原の千五百秋の瑞穂の国があった、というものである。というわけで、日本列島にいる我らよりも中国大陸にいる人間のほうが強くて、朝鮮半島にいる人間もちょっぴり強いのだ、というのがある。
 韓国映画を観ると、その強度の違いを感じる。この映画もそうだ。舞台は寂れた漁港。漁ではやっていけない漁船の船長が、中国人朝鮮族密入国を手掛けることになるが……。
 実在の事件をもとにしているというが、しかしまあ途中でひっくり返るところがある。まあ伏せるが「そうなんの!」という感じを受けた。
 して、繰り広げられる生々しく、肉々しい人間模様。漁船のメンバーの「それらしさ」の強さ。とくにもうキム・ユンソクの強さ。『哀しき獣』のミョン社長じゃないっすか。いやはや。そして彼を頂点として構成される家族のような漁船のメンバー。彼らが直面する事態……。
 あー、それで、あんまりその、やっぱりおれはネタバレは避けたいので語れることも限られてくるが、しかしもう強い映画である。弱みもあるが強さがある。そして、ラーメン、インスタントラーメン、パンガメの美味そうなこと。そのシーンを見てインスタントラーメンを食いたくならないやつはいないに違いない。いや、そうでもないか。
 そんでもって……、まあ漁船を構成する……って、さっきも書いたか。これ以上、とくに書くこともないか。さすが『殺人の追憶』関係の人たちの映画、という気がした。生々しく、肉々しい(漁船なのに)。とはいえ、冒頭で老母が漁船を見送るシーンひとつについては、なにか石牟礼道子の世界がちらっと頭をかすめたりもした。しかし、待ち受けているのはひどくえぐいものである。韓国映画のえぐさというのは、もうそれは強い。うん、悪くない、観て損はない。そんくらいしか言えない。おしまい。

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哀しき獣 ディレクターズ・エディション [DVD]

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