『百日紅 Miss HOKUSAI』を観る

 葛飾北斎の娘とその父と家族と関係者の話である。ものすごく大きなテーマはない。妹のことはそう言えるかもしれないが、そうではないと思った。江戸の日常が描かれている。怪異と一体となった江戸の話である。「これは映画ではなく続き物の三十分アニメでいいのではないか」と思わないでもなかった。しかし、不思議と心に残る作品である。「これは映画でなくてはならなかったのだ」とも思わないでもなかった。
 主たる声優は専業声優がつとめていない。松重豊などはもう声優でもバンバンいける域だな、と思った。杏という人が主役になるのだが、「非声優が声優をつとめたらこんな感じ」として成功しているといっていい。全体的に地に足がついていて、足がついている理由にもなるだろう。
 そもそもこの監督は、などという知識もないので、このていどの感想しか出てこない。しかし、繰り返せば不思議と心に残る映画である。浮世絵を全面に押し出して、これが日本の江戸でござい、などとやってみるのも「波」のシーンくらいであって、あとは落ち着いたものである。終わり方もスッとしていて嫌いじゃない。もっとも、最後の最後のカットはどうなのだろうかと、やや疑問には思う。とはいえ、やはり不思議と心に残る作品のような気はする。