武豊の世界

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「ダコタはどこだ?」ではないが、昨日行われた天皇賞・秋、安定した先行から圧倒的な勝負根性で相手をねじ伏せるキタサンブラックの姿が、道中いるべきところにいなかった。スタートで安めを売って、中段からの競馬になってしまったのだ。馬場は極悪。おれはおれが血統だけで目をつけた岩田康誠レインボーラインを見ていた。その後ろにキタサンブラックの姿を見かけて、この大本命になにかがあれば、おれの馬券にもなにかがあるのではないか、などと思った。

おれはレインボーラインを見ていた。

しかし、気づいたらキタサンブラックが先行から抜け出すところだった。なにが起こったかわからない。おれのレインボーラインも馬場のいいところを探すように右へ左へと振られながらも上がってくる。ただ、キタサンブラック、そして重巧者の実力馬サトノクラウンがどんどん引き離す。そして、キタサンブラックが現役最強馬の意地を見せた。

おれのレインボーラインは3着に入って、おれに少しお小遣いをくれた。

キタサンブラックは強かった。調教がいつもより弱めだという話もあったが、もうこの馬にスパルタは必要ないのだろう。超一流馬に絶好調は必要ない、というやつだ。

が、しかし、おそらく世の中の競馬ファン武豊の手綱さばきに舌を巻いたのではないか。少なくともおれはそうだった。先行勢が外へ外へと殺到するなか、するすると最内に進出、冷静に馬場のなかどころに誘導。うまくいきすぎたというくらいだ。

そしておれは、前日土曜日の競馬番組で見た武豊のインタビューを思い出した。宝塚記念での大敗について、キタサンブラックが「前の夜、寝てなかったかもしれないし」と言ってのけたのだ。そりゃ追い切りまで絶好調でも、前の夜なんか寝られなかったら力を発揮することはできない。まあ、それはいい。武豊が、競馬についてそんなふうに構えている、というところがすごいのだ。馬が寝不足のことだってある。なにがあってもおかしくない。キタサンブラックが出遅れてもおかしくない。

そこから、出遅れたら出遅れたで競馬をするしかない。おそらく、「出遅れた場合はこういうタイミングでこういう進路を……」などとレース前にシミュレートしていたわけではあるまい。レース中のその一瞬、一瞬シミュレートして、正しい方へ導く。その背景には大量の勝利があり、大量の敗北がある。その経験値が、半ば自動的に良い方を選ぶ。

……いや、経験だけだろうか? そんなはずはない。武豊はデビュー時から活躍してきた。もちろん、競馬社会に生まれ育ったということもあるだろう。だが、やはりこんなことができる人間というのは「天才」なのだ。いまさらながら、武豊の天才を見た。そんな天皇賞・秋であった。

で、次のジャパンカップだけど、キタサンブラック落とすんじゃないのか? という可能性を考えておきたい。こんな馬場での激闘の反動。あるいは寝不足。なんでもいい。でも、有馬記念、「復活の有馬記念」で有終の美を飾る。そんな筋書きはどうだろうか。