深町秋生『猫に知られるなかれ』を読む

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猫に知られるなかれ (ハルキ文庫)

猫に知られるなかれ (ハルキ文庫)

 

 

敗戦後の占領下(オキュパイド・ジャパン)での僅かな自由と尽きぬ貧困の中、日本の再独立と復興のため、国際謀略戦に対抗するべく、極秘裏に設立された組織があった。
吉田茂の右腕・緒方竹虎が設立した秘密機関と異能の男たちは、
《Cedant Arma Togae》、通称、「CAT」と呼ばれた――。

Cedant arma togae, concedat laurea laudi.
武具は市民服に従うべし、月桂冠文民の誉れに譲るべし。
キケロー「義務について」より

というわけで、深町秋生 in オキュパイド・ジャパン。帰還兵、闇市、米兵、街娼、サードナショナルズ、スパイ・フロム・ソヴェート。そんな時代に降り立った主人公は元香港憲兵隊に所属していたスパイ狩りの名手<泥蜂(ニーフォン)>。そして今は、GHQ相手にもガンガン喧嘩を売るヤクザの客人、<キャプテン・ジャップ>。それが、秘密機関にスカウトされ……。

というようなお話。まず、正直なところから申し上げると、今ひとつ、だった。深町秋生のバイオレンスと追い詰められっぷり、絶望的状況、そういったものが、この終戦直後の時代にぶち込まれて化学反応を起こしているかと言えば、そうでもない。むしろ、時代背景を丁寧に描きすぎているがために、せっかくの「異能集団」の特異性が存分に発揮されていない、そんな気がする。現代物に出てくる深町流異能集団(主に敵だが)、元傭兵だの元警察官だのでたらめに強いヤクザだのの方が魅力的であり、大暴れしてくれる。本作、四章構成になっていて、それぞれ別の題材を扱っているがゆえに、やや薄くなってしまっているというのもあるだろう。

が、これで終わるのはもったいない。せっかく作った秘密機関だ。このままアンダーワールド・ジャパン三部作とか行ってくれてもいいぜ、という気はする。あるいは、『猫』を叩き台にして、あらためて取り組んでくれたっていい。政界、財界、公権力、ヤクザが入り交じる血まみれの昭和史。悪くないじゃないか。そうしたら、おれはまたホワイトホースを買って読書にふける。以上。

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深町秋生作品感想文については……まとめてなかったので右の検索欄とか使ってください。