ふたつの旅の終わりに

おれは四年に一度くらいサッカーのメキシコ代表を応援するマンである。なぜおれがそんなマンであるかは自分でもよくわからない。メキシコという国の陰に惹かれているのか、それとも純粋にサッカーのプレイスタイルに惹かれているのか。おれはあまりサッカーを見る目がないのでなんとも言えぬ。……と、こういうメキシコ代表びいきについての物言いはさんざんしてきた。それでもなおおれはメキシコ代表を応援する。それしかない、という気である。

というわけで、おれは日本代表の試合そっちのけで、メキシコ対ブラジルを観戦することを選んだ。まさか同日とは思わなかった。それでも、早い時間のメキシコ戦を見て、日本代表は録画でいいや、と思った。おれはよほどのメキシコ好きらしい。

ラファ……ラファエル・マルケス先発。なにかこう、ここぞというところの秘策じゃないか。破れない壁、ベスト16。そこで大ベテランのラファエル・マルケス

おれは燃える、と書いたが、泣ける、でもいい。とはいえ、いずれにせよ、前半は序盤からラファエル・マルケスが場を支配しているような気にすらなった。ポゼッション(一度は使ってみたかった言葉)で優位に立ち、幾度とブラジルゴールを脅かす……、が、点にならない。やばいかも、と思った。思いながら前半が終わった。

そして後半。後半開始とともにラファエル・マルケスを下げた。ラジュンを入れてきた。それが敗因とは言わぬ。やけに暑いという気候の中、大ベテランには体力の限界がきていたのかもしれない。あるいは、というか、たぶんそうだろうけど監督たる「教授」の思い描いたとおりの既定路線だったかもしれない。

いずれにせよ、立ち上がりからブラジルの攻撃がうまくいくようになった、という風には見えた。その結果の失点。ネイマールのゴール。そこから、メキシコは早めに手札を切る。ドス・サントス弟の投入。そして、ハビエル・エルナンデスに代えてヒメネス。……が、もう完全にブラジルのペースだった。トラップの正確さだとか、そのへんでは引けをとならないけれど、そのほかの部分でブラジルは強すぎた。悔しいが、もうそうとしか言えなかった。守備は堅い、攻撃はなにやら有機的に連動して自由自在。オチョアがいかに健闘しようとも……かなわん。

7大会連続の16強敗退。一度スウェーデンにぶっ殺されて、たまたま韓国の番狂わせによって進出したとはいえ、その力は見せた。しかし、足りなかった。正直なところ、かなわんのだ。せめて、序盤のラファエル・マルケスがいて、守備陣が落ち着いていたところでの攻撃、あそこで一点取れていたら。あるいは、後半序盤もラファエル・マルケスを引っ張って、試合を落ち着かせたら……。まあ結果は変わらなかったかもしれない。ベラとロサーノの両ウィングを交換して出ていなくても同じだったかもしれない。日が日だけにこの試合の論評は少ないが、そう思った。勝てないことはなかった。ただ、勝てなかった。拾った命の16強、攻撃的に選手交代したところで、ブラジルは上だった。ここに、メキシコ代表の、そして、おれのワールドカップ・ロシアは終わりを告げた。旅の終わりは儚いものであった。

そしておれは薬を飲んで眠りについた。……のだけれど、なぜかわからないが4時すぎに目が覚めた。とくにだれかの大声で起きたということもなければ、お手洗いに行きたいということもなかった。まあ、それでも目が覚めてしまったのだから、とりあえずお手洗いに行った。そして、外付けのレコーダーの録画中の赤い光を見て、「ちょっとだけ様子を見るか」とテレビを付けた。したらどうだ、後半の早い時間、なんと格上もいいところのベルギー相手に2-0で勝っているではないか。

おれは慌てて録画を再生した。早送りで見る。どこで得点したのか……なんと、前半が終わってしまう。続いて後半、そこで立て続けの2点を見た。乾のゴールなど神がかっているかという素晴らしさだった。そして、「今」に追いつく。おれはこれもなにかの縁と、日本対ベルギー戦を見ることにした。

結果は言うまでもないだろう。なにやらおれは、おれが貧乏神のように思えた。おれが見始めたから負けたのか、そんな気になった。とはいえ、日本は2-0の試合をうまく終わらせるだけの……試合を支配するだけの力? のようなものはなかった。バテてきたところに、あまりにも速く、無慈悲なカウンターに対処することはできなかった。Twitter上で、いったん突き放したオルフェーヴルがソレミアに差される凱旋門賞の動画がアップされた。まさにそのような、そのような差され方をした。僅差だったが、僅差でない。とはいえ、惜しくないといえば嘘になる。いずれにせよ、日本代表の旅もここで終わりを告げた。

はたして、今後メキシコが16強を突破するだけの可能性を持つかわからない。日本が、メキシコのように16強までは確実、というレベルに達するかもわからない。達したところで、メキシコ同様にその壁に跳ね返され続ける……年月、年月がくるかもわからない。今のところ、なにもわからない。

いずれにせよ、おれの一番贔屓とするチームが負け、二番目に贔屓にするチームも負けてしまった。オッズ的には順当な敗北だろう。だが、今大会の荒れ具合から、「どちらか一つは勝ち上がったりしないものか」という予想もしたが、それもかなわないものだった。メキシコとブラジルには差があったし、控え選手の差まで含めると、日本とベルギーにも大きな差があった。結果的に僅差の負けでも、だ。

そして、本当におれのワールドカップロシア大会は終わりを告げてしまった。勝ち上がったブラジルとベルギーの試合は気になるが、夜更かしするほどのこともない。というわけで、さらばロシア、さらばメキシコ代表、日本代表、4年後までは!

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