ダンセイニ卿『ウィスキー&ジョーキンズ』を読む

お前はダンセイニ卿を知っているだろうか? ロード・ダンセイニを? 知らないというのであれば、ともかく『ペガーナの神々』を、『世界の崖の物語』を、『夢見る人の物語』を読むべきである。こんなブログを読んでいる暇があるのならば、すぐさまブラウザを閉じて、買い求めるべきである。

なに? どんな人かしらない? ラヴクラフトが敬愛してやまないファンタジー創始者だ。おれは逆にラヴクラフトを知らないが。あと、稲垣足穂が敬愛しているのだから、もうこれ以上説明がいるだろうか?

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ペガーナの神々 (ハヤカワ文庫FT)

魔法使いの弟子 (1981年) (ハヤカワ文庫―FT)

世界の涯の物語 (河出文庫)

夢見る人の物語 (河出文庫)

そんなファンタジーはとうに読んでいるぜ、という人。ならば、これは読んだか?

二壜の調味料 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミステリー小説、これである。

だが、今回はまた別の道だ。クラブでのほら話だ。ジョーキンズ氏による、アフリカの冒険譚、アラブの魔術、そこらの幽霊の与太話だ。それは、ジョーキンズ・シリーズという。

ウィスキー&ジョーキンズ: ダンセイニの幻想法螺話

正直、おれはダンセイニ卿の『二壜の調味料』で、「ダンセイニ卿はこんなのも書いていたのか」と思ったのだけれど、今度また「ダンセイニ卿はこういうのも書いていたのか」と思ったところである。ビリヤード・クラブにいるダンディなジョーキンズ氏による冒険譚、怪異譚、そのどれも嘘っぱちでもあり、それでいて、人を惹きつけてやまない。

しかし、それはまさしく、空想の都市、空想の王国を描いてみせたダンセイニ卿そのものではないか。たぶん、そうなのだろう。一連のファンタジー世界から足を洗ったあと、書き続けたのはこのジョーキンズ・シリーズだったという。しかしそこには、足を洗ったとはいえない、ファンタジーに満ちた与太話が拡がっている。すばらしい。

与太話はすばらしい。おれもダンセイニ卿かジョーキンズ氏のように、とりとめもない、でもオチはスパッと決まる与太話をして生きていたい。生活の糧というとあまりにも現実的すぎて興をそがれるが、美しい与太話ばかりして、適当にウィスキーをおごってもらって生きていければいいな、などと思うた。不遜ながら思うた。性根のところで、おれは与太話ができるのかどうか、そんなところも考えた。

いずれにせよ、ダンセイニ卿に興味を持ったならば、『ペガーナの神々』あたりから読み始めるべきである。そして、『魔法使いの弟子』のあまりに美しいラストシーンを見ろ。そして、夢を失ったメイジャー・トムはどこに行ったのか、『夢見る人の物語』を読め。で、それでも失われない幻想の駆動を、『ウィスキー&ジョーキンズ』で読むがいい。幸いにして、『ウィスキー&ジョーキンズ』シリーズは、まだ翻訳されていない作品がたくさんあるという。いいことじゃないか。

というわけで、おれは、ひどく、一方的に、投げつけるようにして、おまえたちにダンセイニ卿の物語を勧めるものである。いいから、読んでみろって、なあ。