台風におれの抑うつ連れ去られ

前の前の木曜日から、おれは抑うつ状態にあった。倦怠感のなかにあった。一週間くらい続いた。それがどうしたことだろうか、この週末、土曜日のいつからか、あるいは日曜の目覚めからか、すっかり抜け出したようになった。まだ、抜け出したかわからない。わからないが、ともかく無理をせず起きることができて、普通に手足を動かし、歩行もできるようになった。

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大きな台風が来た。それに対するザワザワしたした気持ち、あるいは、世間がザワザワしている気配。そんなものが、おれを抑うつから連れ出したように思える。台風でたいへんな被害を受けた人には申し訳ないが、どうもそういう気もする。おれの安アパートは押しつぶされることもなく、雨戸だけ閉めておけばどうということもなかった。ニュースを見て、このあたりとすれば箱根の大雨に、あるいはその後の北の方の被害を見ながら、なにか、おれはおれの抑うつを忘れるようでもあった。

抑うつの気が去った」とおれは思った。「気」とはなにか。科学的に説明できるものか。できるのかもしれないが、おれにはできない。おれにはできないけれど、おれという人間が生きるうえで「気」のようなものは確実に存在する。そうは言える。おれの場合、双極性障害躁うつ病)の影響があるとは思うが、健常者にだって元気だったり、そうでもなかったり、そんな日々の上がり下がりはあるだろう。常に一定の元気でいる人間なんかいたら、それは仙人かなにかだろう。とはいえ、科学的に、客観的に、数値的に表されるものでもないのだ。そして、その「気」とかいう胡散臭いものは、天気だの季節だのに左右されないとも言えないのである。

というわけで、台風が南関東から去った日曜日、おれは図書館に向かった。借りていた本を、返す。図書館が開いていることも確認した。台風一過の深い青空、直射日光、やけに暑い。おれは歩いた。街なかに台風の傷跡、のようなものはあまり見られなかった。せいぜい、飛ばされた小さな看板。

おれには、図書館に本を返すほかに、もう一つミッションがあった。当日の出馬表を手に入れること、月曜の出馬表を手に入れること。なにせ、土曜は台風が訪れるか訪れないかというタイミングで三軒コンビニを回って東スポを求めて、「夕刊は来ません」と言われこの天候では土曜日に東スポを手に入れられるはずもなく、せめて午前中に土曜夕刊の東スポがほしかった。おれは夢で買いたい馬券を買えずに焦るという、何度も見た夢を見たくらいだ。

が、三軒コンビニを訪ねて、昨日夕刊分の東スポは一軒もなかった。しかたなく、おれは日刊スポーツ朝刊を買った。

おれは図書館に行って、本を返して、本を借りた。そのあと、桜木町の場外に行って、月曜分の東スポを買おうと思った。が、行き交う馬券親父たちの会話が気になった。

「やってない、だめ」

伊勢佐木町行こうかと思ってんだけど、そっちもやってないらしい」

これである。これでおおよそのことは察したが……。

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ウインズ桜木町、休業。これはきつい。おれのように携帯端末から馬券を買える人間ならともかく、場外で紙の馬券しか買えない、という人にとってはきつい。東京に出ても買えないというのもきつい。どうにか前日の夕刊、専門紙を買えていた人間、朝早く当日のスポーツ紙を買えていた人間にはきつい。これと決めた本命、あるいは穴馬の馬券を買えない。それがどれだけ苦しいことか。もちろん、それが当たるかどうかはわからん。わからんが、買えないで、目をつけていた穴馬に激走されたりしたら、そのショックは外れ馬券をちぎって捨てるより何倍もつらい。おれにはそれがわかる。馬券が外れることではなく、買えないという悪夢を何度も見たことがあるおれにはわかる。無念よな……。

そしておれは「伝説のすた丼屋」に行った。なぜか。女と週末についてのやりとりをしていて、こう言われたからだ。

○○○タローくん(本名)は、外出して日の光浴びて、肉とお米食べるといいよ。

肉と米? 牛丼屋? いや、「伝説のすた丼屋」だろう。

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伝説のすた丼どーん。どーんてほどではない、並盛の普通のすた丼、630円。消費税増税にも関わらず、価格改定してないと主張していたので、それにした。正直、それほど空腹感はなかったのだけれど、食べ始めると止まらず、すごい早さで食べたと思う。おれは食うのが早い。

肉と米を腹に入れたのをいいことに、ドンキで酒を買った。

 

 

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図書館で借りた本4冊と、酒瓶2本バックパックに入れて、おれは歩いた。おれは前の前の木曜日から体が動かなかったから、歩くだけで少し足が疲れた。汗をかいた。暑かった。道をゆく人も、夏の格好をしていた。

アパートに帰ったおれは、見慣れない出馬表を見ながら競馬をした。準メーンは外した。メーンの秋華賞はクロノジェネシスから買った。

見慣れない新聞の裏一面で、元騎手の佐藤哲三が「北村友一の京都のイン差しは強い」と書いていたからだ。結果、稍重にしてはハイペースのなか、先行勢のちょい後ろにつけた北村友一のクロノジェネシス。四角回って最内というわけではないけれど、ロスなくコーナリングしてダノンファンタジーの外、力強く伸びて勝利した。ダノンファンタジーは強いけど、距離もたないんじゃねえかというのがおれの見解だった。おれはクロノジェネシス単勝と、ビーチサンバ、カレンブーケドール、サトノダムゼル、コントラチェックへの馬券を厚く買っていた。当たり馬券すら久しぶりだ、くそったれ。最終はくそ外れたけど、まあいい。

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青空が、青空がおれの抑うつを連れ去った。そう思おう。もしも火曜日に会社が始まって、それが原因でまた抑うつ状態、倦怠感に襲われたら、それは……もう働くなってことかしらん。どうにでも、なれ。すた丼はすた丼らしくおれの胃袋を満たし、北村友一とクロノジェネシスはよく走った。それでいい。