こちらの記事を読んだ。進学校からそれほどでもない大学に行ってしまい、もっと上の大学からいいコースを歩んでいる友人たちと差が開いてしまったが、努力によって挽回しているという話だ(と思う)。
おれはこういう話のなかの、「個人的な資格試験の勉強も重ね、国家試験を二つ取得し、海外営業できるくらいの英語力は身につけた」とか「法学部卒だけど機械系のメーカーに入ったから機械工学と材料科学を勉強し、今ではちょっとしたフィールドエンジニア的な仕事ができるようになった」とか「IT系の国家資格も(仕事に関係ないけれど)取ることができた」とか読んでも、まったくピンとこないのである。「はあ、おすごいですね」としか言えないのだ。
というのも、おれは生来、努力の価値も実感も意味するところも、まるでわからんからだ。この「わからん」というのは「価値観が違う」とか、そういう意味ではない。たとえば、痛覚がない人間に針を刺すようなもので、まるで「わからん」のだ。
努力してなにかを得る? はて。勉強して資格に合格する? さて。なんなんだろうかね、それは。なにが人間をそれに向かって起動させて、どういった心境の持続力があってそれを続け、達成したらどんな気持ちになるのかしらん。
とはいえ、おれも一応は大学受験まで競争のなかにあったといってもいい。なんなら、中学受験もしている。が、おれにとって、あらゆるテストというのは星座占いや血液検査の結果のようなもので、おれの志すところ(そんなものはないのだが)とは関係なく、なんか結果が出ておもしろい、というだけだった。姓名判断でも、生年月日の占いでもいい、それと同じところにテストがあった。そのテストの結果によれば、おれは国語に関するものは大吉で、算数、数学に関するものは大凶であった。おれは大吉でもって、慶應の文学部に入ることはできた(なにせ、おれのときは小論文と辞書持ち込み可の英語……実質現国、それにあまり難しくない世界史だけだった)。ただ、いよいよ学校というものにうんざりしてしまったので、出ることはできなかった。
というわけで、おれは持って生まれたもの、天賦の才能だけでどうにかならねえかなあと思い、そのとおり生きてきた。ついでにいえば、親の遺産かなにかで、働かなくても金持ちになれねえかなあ、とも思ってきた。
が、現実は厳しい。たかだかおれの持って生まれたものなど社会には通用せず、ニートをしていたらなんだか親の経済が破綻して一家離散である。その後の人生は地を這うようなものだ。だが、おれは頑として「努力して底辺から抜け出してやる」という思いも抱かず、抱けず、そのまま這いつづけている。二十年以上だ。資格も経験もほとんどない。すごいだろう。ああ、宝くじ当たらねえかな。
というわけで、おれは今も昔もやる気がないし、向上心というものがない。頑張ってだれかに勝ってやろうという気持ちもほとんどなく、あるいは気に食わないだれかがいれば、勝手に落ちぶれねえかと思う人間だ。おれには気力というものがない。いつからないかわからないから、親の股から出てきたときからそうなのだろう。そして、おれはそのときの初期設定のパラメータのまま、レベル上げを行わずに人生の折り返し地点を過ぎた。小中高の「学力」というものについて、偏りはひどいが初期設定はそれほど悪くなかったかもしれない。しかし、それだけで人生は戦いなり(黄金の騎士)を戦い抜けるわけもなく、社会の底にいる。手帳持ちの精神障害者にもなった。ああ、万馬券当たんねえかな。ドーヴァーは買えたよな。馬場の悪いマイル、ゴドルフィンの馬で鞍上はビュイックだものな。ライトオンキューは買えたけれどさ。
ああ、競馬はいいな。ほんのちょっぴりの努力と、目に見える結果。勝負は一瞬でつく。出馬表を見るのも長くて三十分だ。おれには、そんな具合の勝負が似合ってる。もちろん、負けるが。
つーわけで、おれが言いたいのは……なんだ? なんだかわからん。おれを反面教師にしろといったところで、生まれつきやる気のない、気力のない、努力のできない人間というものもいるだろう。おれのように精神障害者になるやつもいるだろう。そういう人間は……生まれてきたのが間違いだったな、としか言いようがない。勉強し、成果を出し、出世できる人間、金儲けできる人間のためにこの社会は存在している。だから、そんな社会に生まれてきてしまった、競争に向いていないやつは不運だった。残念だ。おれからもストロングゼロを一杯おごろう。ロング缶じゃないぜ。
しかし、だ。生まれなければこのような不幸も生じない。親というものになりうる立場の人間で、自分の能力や資質に疑問があるならば、それはもう産まないほうがいい。この世にこれ以上の不幸を積み重ねる必要はない。それによって、やがて人類はやる気のある有能者だけの世界をつくり、幸福を実現するかもしれない。そうでなくても人類が絶滅するくらいで、それはそれで何が困るというのだ? まったく。
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