ダンカンへの筋違いな罵倒

「ダンカン、コノヤロー、バカヤロー、ダンカン、バカヤロー、コマネチ、バカヤロー、ダンカン、バカヤロー、コマネチ、バカヤロー、ダンカン、バカヤロー、コノヤロー、コマネチ、ダンカン、バカヤロー、コノヤロー、ダンカン、バカヤロー、ダンカン、ダンカン、コマネチ、ダンカン!!」

 

……今日、自転車に乗って帰宅するおれの頭の中をできるだけ正確に記せばこのようになる。

なぜ、おれはダンカンを罵倒していたのか。

おれが、首を傾けていたからだ。「この人はいまからビートたけしの物真似をするのではないか?」と思う人もいただろう。あるいは、「この人はビートたけしの物真似を今まさにしているのではないか?」と思う人もいたかもしれない。

ともかく、おれは首をかしげて、そのまま固定していた。

なぜ、おれは首をかしげていたのか。

首をかしげていないと、痛くてたまらないからだ。

話は今朝にさかのぼる。寝て起きたら首が痛くて回らなかったのだ……と書けば「ああ、寝違いね」で済むだろう。むしろ、おれもそれで済ませればいいと思う。

が、話は少し違う。「それ」が起きたのはシャワーを浴びている最中に起きた。滑って転びそうになったのか? 落としたものを拾おうと、変な姿勢を取ったのか? いずれも否、だ。

急に、気づいたら、首が、正確にいえば左肩から首の左側が痛くなっていた。痛いというか、左側に首を回せなくなっていた。

あまりに予兆というか、きっかけがなかったものだから、おれは脳梗塞かなにかの前兆じゃないかと不安になった。が、声も出せるし、痺れとか麻痺というものでもない。ともかく、筋を違えたのだ。変な姿勢のまま身体を拭き、とりあえずフェルビナク配合の塗り薬を塗った。

 

 ゼノールエクサムとかいう小倉の2勝クラスの特別レースを走ってそうな名前の薬だ。とりあえず、ほかにすべはない。

出社。自転車のちょっとした段差でも痛みが走る。

仕事中。おれはiMacの前で一日を過ごす。首の角度さえ間違えなければ問題ない。とはいえ、トイレに行くときなど、奇妙なカニ歩きをするはめになった。

ムカつくほどに首が痛い。

怒りと言っていい。

おれはこのまま、帰りにスーパーに寄って蒸し野菜の材料を買わなければならないのか? ……そうなのだ。

怒りに燃えたおれは、なにか湿布薬が必要だと思えた。首を一定方向に傾けていると、別の箇所が凝る。腰も痛くなる。湿布だ、湿布!

というわけで、おれはスーパー近くの薬局で、一番高いっぽいフェイタスを買った。フェイタスといえば、香取慎吾がCMをやっていたと思うが、今はどうなっているのかしらない。

 

 

ともかく、おれはフェイタスの湿布を買った。フェイタスジクサスという函館の芝2600mを走ってそうな名前の湿布を買った。

不自然に首を傾けたままレジに向かったので、レジの人は「この人は寝違えたのだろう」と思ったことだろう。いや、違うのだが。

そしておれは、スーパーで買物をした。わりと重い買い物になった。不思議なことに、買い物袋を持つとき、痛みのある側の左手より、右手で持つときのほうが痛い。

そしておれは……。

「ダンカン、バカヤロー、コマネチ、バカヤロー、ダンカン、ダンカン、バカヤロー、コマネチ、コノヤロー、ダンカン、コノヤロー、ダンカンコノヤロー、ダンカン、バカヤロー、コマネチ、ダンカン、ダンカン、バカヤロー、コノヤロー、ダンカン、コノヤロー」

と痛みに呪詛を浴びせながら帰宅したのであった。

ダンカンは本件についてなにも悪くない。とんだとばっちりだ。

しかしまあ、全国でビートたけしの物真似をする人間から「バカヤロー」と言われ続けてきたのだ。そんな人間ほかにいるだろうか。

いや、いるか。たとえば、ジャンケンのたびに「頭がパー」と言われ続けたいかりや長介のほうが上かもしれない。

いや、上も下もない。

おれは今なお、右側に首を傾けながら、これを打っている。

ビートたけしの顔がどちらに傾いているか、おれはしらない。