鈴木智彦『サカナとヤクザ』を読む

 

 

 午後10時過ぎ、役員はカウンターで白河夜船となった。目を覚ました際に、「築地で密漁アワビは売ってるんですか?」と質問した。

 「ああ、売られてるよ」

 その一言が聞きたくて、4ヶ月の間、築地で働いたのだ。

 翌日、上司に退社しますと伝えた。生まれて初めての円満退社だった。数カ月後、この仲卸を訪問すると、仲のよかった社員がオレオレ詐欺出し子で逮捕されていた。

 豊洲に移転しても、こうしたおおらかさを失って欲しくない。

……それって、「おおらかさ?」。とか思っていては、魚介類も食っていけない。サカナとヤクザ、ヤクザとサカナの話である。すごい本だという話はいろいろ目にしたが、なるほど、すげえなという本だ。

そもそもがヤクザに通じた著者の技である。技? 技だろうか。まあ、技だろう。すごい代物である。上に引用したように築地で働くし、密漁現場に出向いて、それらしき相手に「今夜はどうですか?」と聞く。よく、生きていられるな。

ヤクザと仕事。

 昔から兼業ヤクザというべき人種はけっこういる。タクシー運転手をしながら、居酒屋で働きながらヤクザをやるというケースは思いの外多い。その代表格が土建屋ヤクザだ。マスコミや警察は、暴力団が土建業に進出しているととらえているが、それは実情に即していない。

 彼らは土建業が正業で、ヤクザはあくまで副次的だ。ヤクザが土建屋になったのではないく、土建屋がヤクザもしているというのが正しい。それぞれ仕事を持っている個人事業主の互助会……それがヤクザであり暴力団の姿である。

田岡一雄は「正業を持て」と言ったらしい。そういうものなのか。ためになる。関わりたくはない。

その他、個々のエピソードは本書をあたってくれとしか言えない。戦後、銚子を牛耳った高寅こと高橋寅松のこと、旧ソ連のスパイとしても活動した根室の「レポ船」のこと、あるいはその密漁船の驚くべきスペック……。細かく、そして密着している。必読の一冊だ。

で、あとがきによく目にする名前の先生も出てくる。

 「あまりにも地雷が多すぎて下手に突けない」

 東京海洋大学の勝川俊雄准教授は言う。

はてなブックマークでよく目にする勝川先生である。勝川先生は日本の漁業の問題、獲りすぎの問題についてよく言及しているが、それでも下手に突けない領域があるのだ。それだけでも読む価値があるって思えないだろうか。

以上。

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