こちら地球

こちら地球。夏は終わった。秋風が吹いている。繰り返す。秋風が吹いている。人間の列の末尾はもう終局線をこえた。ここにはだれひとりいない。こちら地球。わたしたちの耕してきた土地はすべて荒地に戻る。多くの草木が思い思いに生い繁るだろう。海には魚が、陸には小さな動物たちや大きな動物たちがあふれかえることだろう。最後の月が沈み、最後の太陽がのぼるだろう。わたしたちの成してきたことすべては土くれに還り、赤ぶどうの酒もやがて蒸発してなくなるだろう。こちら地球。川は流れている。川にも魚たちがいるだろう。魚たちを釣るものはもういなくなった。川は魚たちのものになるだろう。こちら地球。長い時間をかけて大きな岩は石ころになるのだろうか。さらに長い時間をかけて砂になるのだろうか。それを観察するものはもういない。草木は生い繁るだろう。花も咲くだろう。花の蜜を求めてスカシバが飛んでくることもあるだろう。小さな動物たち、大きな動物たち。草原には風が吹くだろう。秋には秋風が吹くだろう。草たちは風になぶられて音を立てるだろう。こちら地球。それを見るものはもういない。その音を聞くものはもういない。夏の暑さを言葉にするものもいない。冬の雪の冷たさを言葉にするものもいない。ただ、キツネの足跡が新雪の上に残されることだろう。こちら地球。最後の夏が終わった。秋風が吹いている。この秋風もすぐに消失する。だれにも観察されないものが残って、自然の運動をする。このうえなく美しい世界を想像して、私も彼らに追いつこうと思う。こちら地球。地球から発せられる言葉はこれが最後だ。もう繰り返しはしない。