金のこと以外かんがえる必要はない

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そこの高校二年生、いや、一年生でも三年生でもいい、いいからちょっとおっさんの話を聞け、聞かないなら死ね。

よし、聞くか、聞いたほうがいい。人生にとって大切なものってなんだか知ってるか? ちょっと戸惑ったな、その戸惑いが命取りだ。いや、もう取られてるかもしれねえ。それならご愁傷様だ。でも、生きてる前提にしておいてやる、感謝しろ。感謝感激しろ。

わかってないなら、わからせてやる、大切なものは金だ、マネー、これ以外なにも存在しない。金以外のことは考えるんじゃない。もっと正確にいえば、てめえがなにで食っていくかということ以外はゴミみたいな話だ。

おい、おまえ、おまえは親だの、そのまた親だのの資産で、ひょっとしたら働かなくても生きていけるんじゃないかと思ったか? とんだ思い違いだ。おまえの親の親の財産はおまえの親が食いつぶすかもしれない。おまえの親はおまえの親でとんでもない失敗をするかもしれない。まだおまえのものじゃないんだ。自分は大丈夫だって思った瞬間に蜘蛛の糸は切れるんだよ。証拠はなにかって? このおれさまだ。一家離散、夜逃げ同然の経験をしたおれさまが言ってんだ。どうだ、信用できるだろ? 信用できないなら死ね。いや、今死ななくてもいずれおれと同じように死ぬ。それでも使い切れない富がある? なら今すぐ死ね。おれの私怨で。

そい、そっちいのおまえ。おまえは自分の才能があれば食うにこまるまで落ちることはないだろうと思ったな? まったくの思い違いだ。なんとなくそう思ってたら、地獄へ逆落しだ。おまえにそもそも才能がないかもしれない。あったとしても、食うに足るものじゃないかもしれない。万が一才能があっても、もうこの世で食うには無用の長物かもしれない。金に換えられる価値がないかもしれない。あるいは、今は価値があっても明日にはなくなってるかもしれない。証拠はなにかって? 慶應とかいう大学にストレートで入ったうえに、「おれは何かありそうだし大丈夫だろ」って中退して大井競馬と川崎競馬に通ってニートしてて、結局なんにもならなかったおれが言ってんだ。すげえ信用できんだろ。身を切るようなアドバイス、ありがたく受け取れ、受け取れないなら死ね。いや、即死せずともいずれ死ぬ。

そうさ、いずれ死ぬんだ。ただ、いずれがいずれかわかんねえんだ。これは終わりのない地獄だ。終わりが無いのが地獄だ。貧しさはあらゆる選択肢を殺していくんだ。気づいたらその日暮らしの労働だ。それしかなくなっちまって、どっかに引き返すことも、別の道に入ることもできなくなっちまうんだ。檻の中か? ハムスターがくるくる回してるあれか? なんだかもうわかんねえんだ。

それで頭がおかしくなっちまう。おれは生きるために薬を飲んでるのか? 薬を飲むために生きているのか? トナーのために働いてるのか、働くためにトナーが必要なのか? モリサワのために働いてるのか、働くためにモリサワに貢ぐのか? 因果関係もなんもわからなくなっちまう。しまいにはてめえでなに言ってるのかわからなくなっちまう。

しまいにゃ薬代かんがえたら馬鹿らしい、効能を害する酒に走る。安くてアルコール度数の高いやつならなんでもいい。それでも甲類焼酎ってのはなしだ。いずれそんなこと言ってられなくなるかもしれないんだけどな。落伍者だから酒を飲むのか、酒を飲むから落伍者になるのか。くるくる回り続けるんだ、優雅さとは無縁の風車。

ようするに、おれがなにが言いたいのかわかったか、若人。失敗者の、落伍者のおれが言ってるんだ。どこぞの成功者が、キラキラの、なんたらバイアスつきで能書きたれてんのとはリアリティが違うんだ。おれは失敗した、間違った、軌道修正するにはもう、遅すぎる。

だから、おまえはその、ポイント・オブ・ノー・リターンに達してないとしたら、金のことを考えるべきだ。貧しさから遠ざかるためにありとあらゆることを考えなくてはならない。ありとあらゆることをしなくてはならない。心が弱かろうが、心が完全に壊れてしまうまでやらなくてはならない。終わらない失敗の中を生きつづけるよりは、そっちのほうがずいぶんマシだ。

ともかく、食いっぱぐれないなにかを追い求めてくれ。それを手にしてはじめて人間になれる。金のない人間なんてゾンビみたいなもんだ。ゾンビそのものだ。そしてそいつはたいそう気分が悪い。おれはたいそう気分が悪い。一瞬の話じゃない、ときおりの話じゃない、常にのしかかってくる不安、自死か路上か刑務所か、選べる道はそれくらい。そうはなりたくないだろう? 若くして薬漬けになってもいい、どんなドーピングをしたっていい。先々も安定してそうな大きな会社に入りなさい、公務員になりなさい。

なんども言うけれど、貧しさは選択肢を殺す。どうせ悩むなら食うに困らぬ人間の戯言、優雅な悩みの方がいいだろう? 悩む以外になく、死ぬ以外に救いがなさそうなところに落ちることはないだろう? ああ、おれも優雅な悩みをしてみたいものだ。

おれだって最初から惨めさを追い求めてたわけじゃないんだ。無能のくせになにかあると勘違いして、おれのものになってない金をおれのものだと思い込み、ぼんやりと困難から逃げて、逃げて、逃げ潰れて、それでもレースは終わらないんだ。見たことはないか、人気薄のヘボ逃げ馬が、四角で鞭入れられるのを? それでもレースは続いてるんだ。そいつがどこまで後方においていかれて、一着とどんだけ差がついたかなんて、だれも気にしちゃいないんだ。それを屈辱だと思うなら、いや、思わなければいけない。逃げてはいけない。逃げたらおれみたいになる。

だからさ、人生何とかなる、気楽に生きればいい、なんて話に耳を傾けちゃいけねえんだ。全部嘘っぱちだ、安定した成功者の戯言だ。そいつは完全に嘘だ。死に物狂いで、若いうちに成功を手にするんだ。それ以外に安楽にいたる道はないんだ。そうしなければ、中年になって希死念慮に取り憑かれることになる、頭は狂う一方だ。おれが証明している。

もう一度言う、おまえに余裕を持たせるようなことを言う奴は、金持ちだ、エリートだ、限られたやつらだ。突出して賢いか、もとから金のあるやつだ。おれはそうじゃなかった。だから貧しさのなかにあって屈辱を生きるしか無い。おまえらが道ですれ違ったとき、こうはなりたくないな、と思うようなおれが言ってるんだ。そういう人間が物を言うことは珍しいか? 珍しくないか? あるいはなにかの裁判で一席ぶつようなやつがいるかもしれねえが、ともかく、間違いないんだ。

おれは頭のなかに四角い物体がのめり込んだみたいになって、よくものも考えられないから、何度でも同じことをいう。3000字かけておまえに言う。若いうちの予断なんてクソだ。夢のある可能性に見えるものは全部ゴミ箱に放り込め。そうじゃなきゃ、おまえ自身がゴミ箱に放り込まれる。死んでもいいから努力しろ、いい会社に入れ、公務員になれ、いい身分になれ、それ以外に安楽はない。おれだって本当は失敗したくなんてなかった、間違って逃げた。ぜんぶ間違えだ。敗者の愚痴から学べ、こんな風になりたくはないだろう。今から始めろ、一刻の猶予もない。この世に執行猶予はない。つねに執行されてるんだ、この人生の刑ってやつは。レトリックなんかじゃないんだ。