読書

山際淳司『空が見ていた』を読む

背番号<29>をつけたピッチャーがマウンドに立っている。 次のバッターを迎えるところだった。ロージンに手を伸ばす。そしてバッターを見る。いつものしぐさだ。その評定はさきほどまでと変わらない。変わらないが、しかし、彼の心の中でぽっと燃あがるもの…

穂村弘対談集『どうして書くの?』を読む

どうして書くの?―穂村弘対談集 作者:穂村 弘 筑摩書房 Amazon 穂村 『さようなら、ギャングたち』を読んだ時、ぼくがイメージする理想的な詩集だと思ったんですね。 おれの人生にとって『さようなら、ギャングたち』は特別な小説だ。おれにとって最高の小説…

おれが法について知りたいこと 住吉雅美『あぶない法哲学』を読む

あぶない法哲学 常識に盾突く思考のレッスン (講談社現代新書) 作者:住吉雅美 講談社 Amazon おれが法について知りたいことは、なぜ自分で選んで生まれてきたわけでもない国の法律に、自動的に契約させられてしまうのだろうか? ということである。その契約…

あんたは『第五の季節』を読む

第五の季節 〈破壊された地球〉 (創元SF文庫) 作者:N・K・ジェミシン 東京創元社 Amazon これは、世界の終わりの物語―数百年ごとに“第五の季節”と呼ばれる破局的な天変地異が勃発し、文明を滅ぼす歴史がくりかえされてきた超大陸。その世界には、地球と…

穂村弘『もしもし、運命の人ですか。』を読む

もしもし、運命の人ですか。 (角川文庫) 作者:穂村 弘 KADOKAWA Amazon また穂村弘の本を読んだ。穂村弘の本ばかり読んでいる。いや、ほかの本も読んでいる。しかし、すっきりと読み終えられるのは穂村弘の本ばかりなのである。 本書は、おもに恋愛について…

令和になってもスターバックス怖いおれ―穂村弘『人魚猛獣説 スターバックスと私』を読む

人魚猛獣説 (スターバックスと私) 作者:穂村 弘 かまくら春秋社 Amazon また穂村弘の本である。「スターバックスと私」ときたもんである。なにやら2008年にスターバックスのウェブサイトのクリスマス企画を単行本化したものらしい。スターバックスのお客さん…

穂村弘 『世界音痴』を読む

世界音痴〔文庫〕 (小学館文庫) 作者:穂村 弘 小学館 Amazon また穂村弘の話をしてる……。 というくらい穂村弘の本を読んでいるが、とりあえずこれで一休みだろうか。 しかし、暗い回転寿司の写真だ。とはいえ、おれが借りたのは文庫ではなくソフトカバー版で…

きみは一冊29,700円(税込み)の本を買ったことがあるか?

きみは一冊29,700円(税込み)の本を買ったことがあるか? おれはある。 シオランの『カイエ』どーん。 うおー高い! なんでこんなに高いかよ。おれにはわからん。わからんが、おれはシオランの『カイエ』を自分のものとしたいという思いが強かった。ただ、…

短歌とはなんぞ 穂村弘『ぼくの短歌ノート』を読んだ

ぼくの短歌ノート (講談社文庫) 作者:穂村 弘 講談社 Amazon ぼくの短歌ノート 作者:穂村 弘 講談社 Amazon また穂村弘かよというとまた穂村弘である。とはいえ、今度の穂村弘は本業の短歌の……「読み解きエッセイ」とあるな。やっぱりエッセイか。 ところで…

穂村弘『野良猫を尊敬した日』を読む ―どうしても書きたいことがあるから書くのか?

野良猫を尊敬した日 (講談社文庫) 作者:穂村弘 講談社 Amazon このごろ穂村弘の本ばかり読んでいる。読むのが楽だからだ……というと、なんか失礼な感じがする。とはいえ、読んでいて楽になれる感じはある。このところおれは心身ともに弱っていて、ちょっとむ…

穂村弘『にょにょにょっ記』を読む

blog.tinect.jp またまた寄稿いたしました。 それにしても、タイトルの付け方がすげえよな。 おれにはちょっと書けなかった。 中身は一緒だけれど、これなんだよ、これ。 これがないからおれはパッとしないんだよな。 ……って、読んだ? 読みました? 読んだ…

これは恋の夢 穂村弘『現実入門』を読む

現実入門―ほんとにみんなこんなことを? (光文社文庫) 作者:穂村 弘 発売日: 2009/02/01 メディア: 文庫 「エッセイ集『世界音痴』拝読しました」 「ありがとうございます」 「とても面白かったです」 「ありがとうございます」 「で、当社でもエッセイの連載…

短歌はわからんな……穂村弘『シンジケート』『ドライ ドライ アイス』

シンジケート[新装版] 作者:穂村弘 発売日: 2021/05/19 メディア: Kindle版 ドライ ドライ アイス (現代短歌セレクション) 作者:穂村 弘 メディア: 単行本 先日読んだ穂村弘の『にょっ記』はたいへんおもしろかった。 goldhead.hatenablog.com ならば本業…

池澤夏樹『アトミックス・ボックス』を読む ……なんというか、普通だな

アトミック・ボックス (角川文庫) 作者:池澤 夏樹 発売日: 2017/02/25 メディア: 文庫 父には知らない顔があった。美汐、27歳。28年前の父の罪を負って娘は逃げる、逃げる。追ってくる相手はあまりにも大きい──。「核」をめぐる究極のポリティカル・サスペン…

タルホ的、あくまでタルホ的な

こんな本があった。 稲垣足穂詩文集 (講談社文芸文庫) 作者:稲垣 足穂 発売日: 2020/03/12 メディア: 文庫 まあ、稲垣足穂については本人が言うところのこれに尽きるのだが。 この物語を書いたのが十九歳の時で、以来五十年、私が折りにふれてつづってきたの…

穂村弘『にょっ記』を読む。

おれは穂村弘のことはよく知らない。よく知らないが、高橋源一郎の文章で何回か名前を見たことはある。本棚で『にょっ記』という本を見かけたので、手にとってみる。すると、こんな文章が目に入る。 4月3日 武蔵丸 武蔵丸の夢をみる。 夢のなかで武蔵丸は悲…

植物の名前を知ってる方がモテそうな気がする 『ヘンな名前の植物』を読む

ヘンな名前の植物 作者:藤井 義晴 発売日: 2019/04/17 メディア: 単行本 植物の名前を知ってる方がモテると思う。銑鉄について知っているより植物の方がいい。 「あれはヘクソカズラの花だね」 「キチガイナスビの実がなっているよ」 「立派なヨグソミネバリ…

ルソー『人間不平等起源論』を読む

人間不平等起源論 (光文社古典新訳文庫) 作者:ジャン=ジャック ルソー 発売日: 2008/08/07 メディア: 文庫 所有という観念の発生 ある広さの土地に囲いを作って、これはわたしのものだと宣言することを思いつき、それを信じてしまうほど素朴な人々をみいだし…

『石牟礼道子追悼文集 残夢童女』を読む

そして三、四年前石牟礼さんの所に週に一度行って手足になってくれと渡辺京二さんに頼まれて、久しぶりに石牟礼さんの周りをうろつくことになった。今度も「おまえヒマそうだな」なのだ。石牟礼さんに会うとやがて「ワガママ、気まぐれ、思いつき大明神」と…

アメリカの黒人はどう扱われたのか? 小説『地下鉄道』を読む

地下鉄道 (ハヤカワepi文庫) 作者:コルソン ホワイトヘッド 発売日: 2020/10/15 メディア: Kindle版 ピュリッツァー賞、全米図書賞、アーサー・C・クラーク賞、カーネギー・メダル・フォー・フィクション受賞。19世紀初頭のアメリカ。南部のジョージア州にあ…

またいつか澁澤龍彦を読み返したい―『澁澤龍彦玉手匣』を読む

澁澤龍彦玉手匣 作者:龍彦, 澁澤 発売日: 2017/07/27 メディア: 単行本 作家に長篇型と短編型があるとすれば、私は明らかに後者であろう。だから極端にいうと、たとえば原稿用紙一枚か二枚の推薦文などに、私のもっとも得意とする領分があるのではないかと思…

池澤夏樹『双頭の船』を読む

双頭の船 作者:池澤 夏樹 メディア: 単行本 双頭の船とは、要するに両頭船のことであり、あっちが前か、こっちが前か、どっちも前だというフェリーのことである。 主人公は、恩師のすすめでこの双頭の船に乗ることになる。行き先は北だ。北のどこだ。被災地…

『こち亀』愛憎 「『こち亀』社会論」(稲田豊史)を読む

『こち亀』社会論 超一級の文化史料を読み解く 作者:稲田 豊史 発売日: 2020/09/12 メディア: 単行本(ソフトカバー) 『こち亀』とおれ、おれと『こち亀』。それについては日記に書いてきたので、気になるなら読まれたい。 goldhead.hatenablog.com 最初に…

とこでニッサって誰だ? 『植物のあっぱれな生き方 生を全うする驚異のしくみ』(田中修)を読む

こないだ、はてな匿名ダイアリーで「植物が怖い」という人がいた。 自分は植物恐怖症です。というより、お前らなんで植物怖くないの?? アイツラは生きている。 大量の花が同じ場所で何日も何ヶ月もずっと空を見ているんだ。 何を考えているのかわからない…

自分の内と外とは? 『記憶する体』を読む

記憶する体 作者:伊藤亜紗 発売日: 2020/04/15 メディア: Kindle版 おれが「身体」と書いたら、「からだ」とルビをふるのが正しいと言っておきたい。おれは身体について興味がある。これだけ書くとへんな感じだが、なんというか、自分も含めた人間というもの…

反出生主義者はへこたれない 森岡正博『生まれてこないほうが良かったのか?』を読む

生まれてこないほうが良かったのか? ――生命の哲学へ! (筑摩選書) 作者:正博, 森岡 発売日: 2020/10/15 メディア: 単行本(ソフトカバー) おれは反出生主義者を自認している。 おれの反出生主義は、シオランを読んで目覚めたものでもなければ、べネターを読…

小川一水『コロロギ岳から木星トロヤへ』を読む

コロロギ岳から木星トロヤへ 作者:小川一水 発売日: 2013/11/15 メディア: Kindle版 おれは小川一水の『天冥の標』を読んだ。すばらしい読書体験だった。小川一水はほかに二冊くらい読んだかもしれない。『コロロギ岳から木星トロヤへ』は未読だった。未読だ…

オストアンデル! 『俗語発掘記 消えたことば辞典』を読む

俗語発掘記 消えたことば辞典 (講談社選書メチエ) 作者:米川明彦 発売日: 2016/12/23 メディア: Kindle版 広大なネットのどこでなにを読んだのだか忘れてしまったが、「死語おもしろいな!」と思ってこの本を手にとった。あるいは、この本の紹介を読んだのか…

池澤夏樹『スティル・ライフ』を読む

スティル・ライフ (中公文庫) 作者:池澤夏樹 発売日: 2020/09/30 メディア: Kindle版 スティル・ライフ (中公文庫) 作者:池澤 夏樹 発売日: 1991/12/10 メディア: 文庫 おれと池澤夏樹、池澤夏樹とおれ。 おれはこれまでの人生で、とくに池澤夏樹を意識した…

いまさらウイルスについて学ぶ 『ウイルスと人間』、『病原体から見た人間』を読む

いまさらながら「ウイルスってなんだろう?」と思った。なので本を読むことにした。わからないことがあれば本を読む。ロックンロール・バンドとウェブサイトは信じちゃいけない。 もっとも、ろくでもないインチキが書かれている本も数多く出版されているのだ…