クヌート・ハムスン『ヴィクトリア』を読む、あるいはGPT翻訳チャレンジその後

 

 

「愛に似たものは世界にふたつと存在しない」──城の令嬢と粉屋の息子、幼なじみのふたりをしだいに隔てる階層の壁。世紀末ノルウェーの森で、秘められた思いと幻想が静かに燃える。大自然の中から突如として現れ、北欧に新ロマン主義を巻き起こした大地の作家クヌート・ハムスン(1859―1952)の、もっとも美しい恋愛小説。

 

紹介文に書かれている内容だと、おれがあまり読まない、というかほとんど読まないタイプの本ということになる。しかし、これは『飢え』のハムスンの著書なのである。

 

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おれはハムスンが大好きになったので、『ヴィクトリア』も読まなきゃあかんのである。それが、なにか大時代的な恋愛小説だとしても。

 

して、どうだったか。これがおもしろい。最初は「時代背景とかどのへんかようわからん」と思っていたが、慣れて世界に入ることができれば問題ない。主人公ヨハンネスの、妙に強く、妙に不安定なところが、どうにも『飢え』の主人公を思い起こさせる。メロドラマといえばメロドラマだし、やっぱり大時代的だし、それでも、なにかこう、いいのよ。詩人、作家としてのヨハンネスの持つ幻想がさ……。ああ、おれはこの種の小説を語る言葉を持たない。

 

というわけで、訳者解説の話でもする。ハムスンのけっこう詳しい紹介がされている。「クヌート・ハムスン」は最初「Knud Pedersen Hamsund」だったのが、「Knut」になり、「Pedersen」が削除され、「Hamsunn」になり、『飢え』でようやく「Knut Hamsun」に落ち着いたとか、勉強になる。

 

そして、すげえ金をかなりのスピードで使い切ったことについて、『謎 クヌート・ハムスンの生涯』(ロバート・ファーガソン)では「賭博に消えた」んじゃないかと指摘されているらしい。

 

ハムスンの口癖は、「自分は原理原則として賭博を好んでいるのであって、賭博の魅力は勝ち負けではなく賭け(リスク)そのものの昂奮(スリル)にある」であった。ハムスンが無条件に敬愛する数少ない作家ドストエフスキーも賭博者である。ハムスンがこの悪癖と手を切ることはなかった。

 

かっこいい。賭博者たるものこうありたい。

 

あと、ポール・オースターが『飢え』の英訳版に序文を寄せたという。

 

『飢え』には筋も行動もなく――話者を除けば――登場人物もいない。十九世紀の基準でいけば、なにも起こらない作品である。話者の究極の主観性が、事実上、伝統的な小説の基本的な配慮をことごとく排除する。……この小説には欠陥を相殺する社会的価値があるとも主張できない。『飢え』は牙をむく悲惨のなかにわれわれを放りこむくせに、この悲惨をいっさい分析しようとはせず、政治的行動へと駆りたてようともしない。……ハムスンは階級間の不公平に頓着したことはない。彼の描く話者たる主人公は、ドストエフスキーのラスコーリニコフとおなじく、人生の負け犬ではなく知的傲慢の怪物なのだ。

 

おお、オースターがそんなことを。やっぱり『飢え』は興味深い作品だ。

 

あ、『ヴィクトリア』の話だったか。まあ、いいか。『ヴィクトリア』についても、訳者解説がためになる。『飢え』も『ヴィクトリア』も読め。ハムスンはいいぞ!

 

というわけで、おれはノーベル文学賞受賞作の『土の恵み』を読むからな。

 

……って、読めねえのだ。

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……そうだ、『土の恵み』は新潮社から文庫で昭和18年(1943年)に翻訳が出ているが、ぜんぜん出回っていない。図書館にもないし、あったとしても東京のどこかの禁帯出だったりする。なのでおれは、自力で翻訳するしかないと思った。翻訳エンジンより、生成AIにやらせた方が、ずっと訳の文章がいい。AIにやらせよう。と、思って、とりあえずGPT-4について様子見しているところだった。

 

が、あれだ、こんな記事を読んだ。

2週間使い倒してわかった「GPT-4-Turboの衝撃」。OpenAIの「お家騒動」で見逃してる場合じゃない | Business Insider Japan

あ、全文読めなくなっている。おれのブックマークからメモを引用。

 

このトークン長を使うには、「Tier4」(ティア4)というレベルのユーザーにならなくてはならない。Tier4になるには、250ドル(約3万7000円)を前払いする必要がある。

 

これである。おれがGPT-4しかねえな、と思ったのは、大量のトークンを使えるからだ。3では小説の文章量が長すぎて話にはならない。しかし、単なる月額会員ではそれが使えんという。250ドルが3万7000円という円安にもめまいがするが、1ドル100円の時代でも、ちょっと手が出ない。なにせ、おれの技術、というか、おれのChatGPTを使うでは翻訳ができるかどうかも定かではないのだ。

 

というか、2万となると、昭和18年版の古本を探したほうがいいのではないか、ということになる。

www.kosho.or.jp

 

全3巻のうちの一冊で5,000円。全部揃って1万5,000円だとしよう。1万円出すかどうかはかなり疑問とはいえ、3万7000円より安い。おれの目的は『土の恵み』を読むことであって、AIによる翻訳の自動化などではない。

 

ということで、おれはいつか古本で昭和18年版を手に入れることに望みをかけたい。できたら、ブックオフで100円で売られていたらありがたい。その希望はかなり低いように思えるのだが。

 

livenationforbrands.com

 

……って、昭和14年版というのも出てきた。上下巻か? 

 

would.suzbek.shop

 

あ、あれ、売ってる……のか? なんのサイトだ? なんか、信用できるのか……? 売り切れのページとかもあったから、これは見落としてたぞ。いや、あったらあったで、どうするよ。予想より安いやんけ。ああ、今週、競馬を土曜の最終で勝ったところでやめておけば、これは余裕で買ったな。でも、なんのサイトかようわからんし、どうしよう。

 

恍惚の波が迫りきて、眼は焔となって燃えあがり、胸の鼓動が高まる。すると美しい緋色が大地から昇ってくる。偽りなき裸の心から昇ってくる羞恥の緋色だ。

『ヴィクトリア』