タトゥーの女たちと無人のジム

 

わたしはジムに通っている。ジムといっても24時間使用できる、無人のジムだ。本格的に身体を鍛えようという人はあまりいない。

 

わたしも少しは筋肉でもつけてみるかといったくらいの気持ちで、週に二回くらい通っている。自分と似たような動機であろう中年男もよく見かける。もちろん、女性もいる。

 

そんななかで、わたしが気づいたことがある。タトゥーをいれている女性が多いのだ。いや、女性会員のなかで多いというわけではない。ただ、街中で見かけるより、割合が高いように思う。首筋に★を散りばめていたり、脚に入れていたり……。

 

彼女たちの体格はスマートで、きびきびとマシンを扱い、私にはできないようなペースでトレッドミルを走る。なんだろう、もっといいジムに行けばいいのではないかと思う。

 

が、ふと気づいた。トレーナーがいるような普通のジムはタトゥー禁止なのではないかと。ゆえに、彼女たちは肉体をさらに鍛える場所がなかった。しかし、完全無人のジムならどうだ。規約にも書いてなかったと思うが、もしあったところで、べつに注意する人もいないだろう。監視カメラがタトゥーまで見つけるとも思えない。

 

しかし、それじゃあ、タトゥーの男がいないのはなぜだろうか。答えは明白である。タトゥーの男は鍛錬などしない。非鍛錬、これがタトゥーの男の生き様である。強くなるために身体を鍛えることなどしない。そして夜な夜な五百円硬貨を指で潰し、口の中で弾薬を爆発させる。そして、ワイルドターキーを飲みながら、去っていく。

 

ジムで鍛えているタトゥーの女たちはタトゥーの男と戦えるだろう。パワー対スピード。しかし、そんな恐ろしいことは起こらない。強者は強者を知る。むだな争いはしない。

 

わたしは今日も、無人のジムでちょこちょことマシンを動かしているだけだ。強い女たち、そして男たち。おれは生き物として弱い。いま、ラットプルダウンの持ち手を滑って放した。ガシャン! と恥ずかしい音を立ててしまった。そんなことを気にしないで、タトゥーの女はトレッドミルでダッシュを繰り返す。