ぼくたちがマスクを外すとき(未完)

公衆広場の祭壇中央に、ゆっくりと一人の女性が歩を進めた。白いローブに身を包んだその人こそ、モデルナ=ファイザーアストラゼネカ三世公女、その人であった。

人々の拍手を受けたその人は、右手をあげてそれを鎮めた。

 

「わたしたちは、ようやくこの日を迎えることができました。わたしたちはあの災厄を逃れるために、ここ月軌道のコロニーにまで至りました。第一コロニー、セイントリー。第二コロニー、オクタゴナル、第三コロニー、マイトアンドパワー、そしてここ、第四コロニー、マカイビーディーヴァ。ここに至ってわたしたちは、ついにSARS-CoV-2とその数々の変異種から逃れることができたのです。ようやく、わたしたちは、あの恐るべき感染症から自由になりました。それを、ここに宣言します。私も、皆さま賢明なる人類も、忌まわしいマスクを外すときが、いま訪れたのです……!」

 

地球を捨てて、数世代、ようやくここに自由が訪れる。ぼくたちは途方もない愉悦のなかにあって、耳にかかったゴム紐の片方に手をかけた。

 

「3、2、……」

 

カウントダウンがラージモニターの公女の映像に重ねて表示される。いよいよ、そのときだ……。

が、突如モニターは暗転する。遠くに見える公女が振り返ったのが見える。そしてモニターに写ったのは、マスクをしていない髭面の男だった。

「愚かなるワクチン主義者ども! われわれは告げる! 自然からもたらされたコロナ様を捨てた、理性主義者であるお前たちに、母なる地球の摂理をあらためてもたらす! 自然万歳! 反ワクチン! 反監視社会! コロナ万歳!」

そう絶叫すると、画面いっぱいにウイルス格納容器を映した。

「われわれは、悪しき反ウイルス研究拠点を制圧した。今からこの最新型変異コロナウイルスサンプルを、コロニーに散布する! 人間本来の免疫機能に目覚めよ!」

四方から爆発音。そして空気の流入を感じる。風。そこにはウイルスが混じっているのか? なにもわからない。パニックになった人々は、マスクをしたまま右往左往する。右往左往したところで仕方はない。

なにより、ぼくらは選ばれた多重ワクチン接種者だ。未知の最新型ウイルスにも抵抗できるはずなのだ。だが……。

 

結局、ぼくらは次の新天地を目指した。まだ汚されていない土地。第五コロニー、ウィンクス。まっさらな人工的な土地に、ウイルスは存在していない。それでもぼくらは、マスクをしてその土地を目指す。人類がその顔の半分を覆って何世紀が経つだろうか。ぼくたちの逃避行は、終わることがない。

 

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