イヴァン・ニトロエフボンバノスキーの労働(未完)

イヴァン・ニトロエフボンバノスキーは軽ワゴンをとめると、「信頼する水を工事」と書かれたキャップを被った。工具箱を持って、その屋敷……今どきめずらしい大きな一軒家のインターホンを押した。

「ご連絡いただきました水道の工事にまいりました」

イヴァンの日本語は日本生まれの日本語話者と区別がつかないほど流暢だ。しかし、イヴァンの生まれはサハ共和国のスレドネコムリスクだ。新生神聖親政大ロシア協力協和帝国連邦の「大破局」の影響で、5年前に日本の北海特別領域に逃れてきた。それ以来、いくつかの職で食いつなぎながら、首都大都市東京にたどりついた。今の仕事は水道工事の出張サービスだ。

「お待ちしていました。どうぞ」

と、インターホンから若い女の子の声がすると、門がオートマチックに開いた。誘導ホログラムが勝手口ドアへのルートを示した。

勝手口から現れたのは、平成後期型のメイド服を来た女だった。青白い顔色、目の下にはくまがあり、どぎついピンク色の口紅をしている。

「この蛇口から水漏れがして、止まらないのです」

女がそう言うと、イヴァンは蛇口を見た。正面から、右から、左から、上から、下から。そしてこう言った。

「これはお庭の水道管に問題があります。土を掘り起こして水道管の取り換え工事が必要です。古いタイプの水道管なので特殊な工事が必要です。蛇口も新しいものに換える必要です。お金は254万9千円必要です。マグネットからのお電話ですので3千円値引きサービスです」

イヴァンはそう言うと、オノ・センダイの耐水タブレットを取り出し、見積書画面を女に見せた。

突如、女の表情が一変した。

「おい、このビチクソ野郎! いつもおまえらはそうやって、そう言って、ボッタクリ、水道屋! おまえ、何回も殺してやる! この間も、殺したのに!」

メイド女はキッチンの引き出しを手動スライドさせると、中からカルチュア・コンビニエンス包丁を2本取り出すと、恐ろしいスピードで連撃をくわえてきた。

「死ねどす!」

こいつ、キッチン・ジャンキー・ジャンクか。崩壊した大ロシアで、荒廃した奥の細い道ロードで、イヴァンはこんな人間ジャンクをたくさん見てきた。青色ドラッグやまがい物の多正面結晶剤で、精神も肉体もイカれた仕上がりにした連中。

イヴァンはオノ・センダイの耐水タブレットを盾にする。リンゴのようにあっさりと両断される。よく研がれている。

バックステップと同時に椅子を蹴り飛ばして足止め、工具箱から超電磁ウォーターポンププライヤーを取り出す。女は椅子を軽々と飛び越えて包丁を振るう。超電磁ウォーターポンププライヤーで受け止める。かなりの力だ。

が、その力こそイヴァンにとっては自らのパワー。敵のパワーこそはステイ・リラックス・マインド! リャブコ!

「スペース・トルネード・システマ・入れ替わり!」

イヴァンは技名を叫ぶと、システマ動きで女と体勢を入れ替える。

「鈍器による暴力行為!」

女の後頭部めがけて超電磁ウォーターポンププライヤーを振り下ろす。ガンッという衝撃がイヴァンの右手に伝わる。これは人間骨の反応ではない。システマ動きで女と距離を取る。

ゆっくり振り返りながら女が言う。

「バカ水道工事屋! チタンなのよ〜。これでご主人さまに折檻されても大丈夫なのよ〜」

女は包丁を一本捨てて、もう一本を水平に構えた。

「害虫駆除! チェストォ〜!」

叫ぶやいなや人間身体能力超越スピード直線刺突攻撃。

が、イヴァンの目は確実にその切っ先を捉えていた。

「ジャンピング・サンボ・キック!」

人体プガーチョフ・コブラ飛びムーブで刺突をかわすと同時に、モリブデン安全靴から飛び出していた隠しナイフで、女の両目を突き刺す。

「あぎゃー!」

女は流血噴水しながらもんどりうって倒れた。

「おま」

と言った瞬間、イヴァンはカルチュア・コンビニエンス包丁で女の首筋から胴体、ありとあらゆるところをめった刺しにしていた。

「銃剣突撃にはサンボが有効なんだ。おれはシル川の決戦でそれを知った……なんだ、もう死んだか」

 

イヴァンは、オーブンで女死体を確実処理しつつ、返り血を浴びた作業着を最新式のクアッド・ドラム洗濯機で洗う。椅子に腰掛けて「競馬の天才」8月号を読んでいると、小型オノ・センダイ端末から呼び出しコール。AIの合成音声がする。

「東京半水没8区、トイレの詰まり、急行。185万9千円。3千円サービス。座標別途送信」

 

やれやれ……。

(未完)

 

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