深町秋生『鬼哭の銃弾』を読む

「鬼哭の銃弾」をAIに描かせたら微妙にリアルな何かが出てきた

映画『ヘルドッグス』見ようかなと思い、そういえばさいきん深町秋生作品読んでないなとか思って、そんでも映画見るならべつの作品いくかということにして、『鬼哭の銃弾』を読んだ。

 

「早かったな」

「鍋ですね。キムチ鍋」

「なに?」

「あっという間でした。おれが店に入ったときには、もうレジに向かっていて、買い物カゴに豚肉と野菜とキムチ鍋の素が入っているのが見えましたけど」

「この暑さで鍋物か」

「珍しくないですよ。夏に辛いものを食えば代謝が向上して、胃腸の血流も増えますから。野菜もたっぷり摂れますし。帰り道の途中にコンビニがいくつもあったのに、スーパーにわざわざ寄った理由がわかりました。評判どおり、なかなか真面目な男のようですね」

というわけで、本作は実際に起きた「八王子スーパー強盗殺人事件」をベースにした話だ。

 

八王子スーパー強盗殺人事件 - Wikipedia

 

スーパーの強盗事件で、被害者三人が射殺された事件。本作でもスカイーヤーズビンガムが出てきて、話のキーになる。二十年前のスーパー強盗殺人事件で使われたスカイーヤーズビンガムを、河川敷で撃ったやつがいる。線条痕からそれが明らかになる。いったい、だれが撃ったのか。なんの目的で?

 

というところから話が展開していく警察小説である。警察小説だ。そこに家族の、父と子の、いろいろの話が混じり合って、なおかつバブル時代を描き、それでいて操作は現代的でもあって、それでいてバイオレンスで汗まみれ、血まみれである。もちろん、はてなブックマークで姿をお見かけする深町先生だけあって、これだけバイオレンスながら、どこかポリティカルにコレクトな意識というのがあって、そこもおもしろい。警察ノワールといっても、高村薫ほどすごいボリュームでもなく、夢中になって読み切れる。おれは体調を悪くして会社を早退した日の夕方、なんとなく読みはじめて、読み切った。

 

とはいえ、あれだ、ネタバレはしないけれど、若干、動機のところで弱いと思ったところはある。そこんところはある。いっぽうで、すげえ強いジジイの描かれ方はなかなかにエグく、魅力的だ。

 

というわけで、すげえ強いジジイやかっこいいお姉ちゃんも十分活躍するので、おすすめです。こんな感じで、高村薫やエルロイみたいなノワール警察官史大作とか読みたいな。……って、それ、『ヘルドッグス』の原作三部作か。やっぱり小説からいくか。まあ、考える。