読書

『赤を見る―感覚の進化と意識の存在理由』を読んだ

他人が見ている青い空は、実は自分にとっては真っ赤なのかもしれない。ただ、それはどうやっても確かめられない……というようなことは、誰もが一度は考えるはずだ。たぶん。そればっかりは、どうやっても。 で、先日図書館でこんな本を見かけた。 赤を見る―感…

達人としての医師というものについて

blog.tinect.jp 神田橋條治 医学部講義 作者:神田橋 條治 創元社 Amazon 寄稿いたしました。 神田橋條治医師の講義録についての感想です。 お読みいただけたでしょうか? 読んだか、このやろう? 読んだということにする。 というわけで、神田橋條治である。…

藤原新也『日々の一滴』を読む

日々の一滴 作者:藤原新也 トゥーヴァージンズ Amazon 藤原新也の近頃の本である。 藤原新也のオールド左翼的、反原発などのありきたり発言にはちょっと嫌な感じがする。 それでも藤原新也の写真はすばらしい。 それでも藤原新也の文章はときどき芯を食う。 …

斎藤環・與那覇潤『心を病んだらいけないの?』を読む

心を病んだらいけないの?―うつ病社会の処方箋―(新潮選書) 作者:斎藤環,與那覇潤 新潮社 Amazon 医師と当事者 おれは精神科医の書くものが好きである。一般人、患者向けに書かれたものでもよいし、同業者に向いて書かれたものでもよい。後者はもちろんむず…

川上弘美『龍宮』を読む

龍宮 (文春文庫) 作者:川上 弘美 文藝春秋 Amazon 川上弘美の『龍宮』を読んだ。 というか、この日記の読者の方から「北斎」を読めと勧められたので、読んだ。 蛸に教訓を垂れられた。私は神妙そうに頷いた。 「そのまま岸に着き、船は港に舫われた。夜にな…

チャールズ・ブコウスキー『英雄なんかどこにもいない』を読む(ちょっと読んでない)

英雄なんかどこにもいない 未収録+未公開作品集 作者:チャールズ・ブコウスキー 青土社 Amazon ブコウスキーの「未収録+未公開作品集」を読んだ。読んだといっても、ぜんぶ読んでない。正直に言う。年度末で忙しくて、読書する時間がない。くそったれ。 そ…

『ブコウスキー・イン・ピクチャーズ』を読む……? ……見る?

ブコウスキー・イン・ピクチャーズ 作者:ハワード スーンズ 河出書房新社 Amazon ハワード・スーンズによるありきたりでないブコウスキーの伝記を読んだ。 goldhead.hatenablog.com 同じ著者による、ブコウスキー写真集があるというので読んでみた。いや、写…

西村賢太『痴者の食卓』を読む

痴者の食卓 作者:西村 賢太 新潮社 Amazon 夢魔去りぬ (講談社文庫) 作者:西村賢太 講談社 Amazon (文庫本化したさいに表題作名を変えたようです。しかし、文庫本の表紙はなんなんだろう) おれは図書館に行くとき、次に借りるものが決まっているときと、決…

シモーヌ・ヴェイユ『工場日記』を読む

工場日記 (ちくま学芸文庫) 作者:シモーヌ・ヴェイユ 筑摩書房 Amazon シモーヌ・ヴェイユの『工場日記』を読んでみた。 月曜―火曜――ねじ、C4×16、鉄/4フラン50で5000個プラス賞金1フラン/フライス1号、7010III/013252、フランジ固定。M・P・Rねじ、鋼鉄…

早助よう子『恋する少年十字軍』を読む

恋する少年十字軍 作者:早助よう子 河出書房新社 Amazon 『アナキスト本をよむ』をよむ - 関内関外日記 栗原康の本で知った本を読んだ。 早助よう子という名前も知らなかった。なんとも奇妙な、奇っ怪な小説集だった。情景が、発想がぴょんぴょん跳ねてとん…

ハワード・スーンズ『ブコウスキー伝 飲んで書いて愛して』を読む

ブコウスキー伝―飲んで書いて愛して 作者:ハワード スーンズ 河出書房新社 Amazon この日記の読者の方からのお便りで(みんなもっとお便り送ってくれてもいいんだからね!)、「チャールズ・ブコウスキー好きならスーンズの『ブコウスキー伝』いいですよ」と…

精神障害者が『なぜ心はこんなに脆いのか 不安や抑うつの進化心理学』を読む

なぜ自然選択は、私たちをこれほど多くの精神疾患に対して脆弱なままにしたのだろう? これは価値のある問いであり、これに答えようとする試みによって、精神疾患に対する私たちの理解は深まるはずだ。これが、本書のシンプルなテーマである。 「エピローグ…

生と死とセガサターンと人間の歴史 長嶋有『もう生まれたくない』を読む

もう生まれたくない (講談社文庫) 作者:長嶋 有 講談社 Amazon 三月に起きた津波は、その高さが「数字で」発表された。その数字より高いところにのぼったら生き残り、低ければダメだった。あるいは、同じ建物の三階に逃げた人は死に、屋上の人は生き残った。…

『アナキスト本をよむ』をよむ

アナキスト本をよむ 作者:康, 栗原 新評論 Amazon 「アナキスト本」をよむ、のではなく、「アナキスト」本をよむ、なのだ。だが、アナキストがよむ本なのだから「アナキスト本」なのかもしれず、そのあたりはどうとでも解釈すればよいだろう。 というわけで…

年末年始『三体』三昧

おれが劉慈欣の『三体』を読み始めたのは西暦2021年12月30日14時20分(JST)頃である。そのことは「サンマルクカフェ」のレシートから明らかだ。 さかのぼって数十分前、おれは伊勢佐木モールのブックオフにいた。恥を晒すが、ブックオフだ。そこでおれが見…

黄金頭さんが2021年に読んでよかった本

今年読んでよかった本を挙げる。もちろん、おれは今年出た本を読むことは少ない。ほとんどない。だから、おれが今年読んでよかった本だ。 『幻覚剤は役に立つのか』 goldhead.hatenablog.com 大麻がどうこうというところに、幻覚剤である。幻覚剤はすげえ。…

なぜアナーキーは成立しないんだぜ? 栗原康『何ものにも縛られないための政治学 権力の脱構成』を読む

何ものにも縛られないための政治学 権力の脱構成 (角川書店単行本) 作者:栗原 康 KADOKAWA Amazon 「はじめに」にだいたい重要なことは書いてある 権力はいまやこの世界のインフラのうちに存在する。 ―不可視委員会 ぎゃあ、そうだったのか、おれたち、イン…

双極性障害者が『うつを甘くみてました #拡散希望#双極性障害#受け入れる#人生』を読む

うつを甘くみてました#拡散希望#双極性障害#受け入れる#人生 作者:ブリ猫。 ぶんか社 Amazon 家族もうつを甘くみてました#拡散希望#双極性障害#受け入れる#人生 作者:ブリ猫。 ぶんか社 Amazon Kindle unlimitedが3ヶ月間で99円とかいうキャンペーンをやって…

日本には力強いおっさんが少ない 『ワイルドサイドをほっつき歩け ハマータウンのおっさんたち』を読む

ワイルドサイドをほっつき歩け ――ハマータウンのおっさんたち 作者:ブレイディみかこ 筑摩書房 Amazon はじめに言っておくが、おれは『ハマータウンの野郎ども』を読んだことがない。 ハマータウンの野郎ども ─学校への反抗・労働への順応 (ちくま学芸文庫) …

ライトなビジネス書『宗教と哲学全史』を読む

【ビジネス書大賞2020 特別賞受賞作】哲学と宗教全史 作者:出口 治明 ダイヤモンド社 Amazon なんかで本書を知って、手にとってみて「あ、思ってたよりすげえ分厚い」と思ったけれど、読み始めてみたら「新書やん」と思って安心した。宗教と哲学の全史という…

柴田勝家『アメリカン・ブッダ』を読む

アメリカン・ブッダ (ハヤカワ文庫JA) 作者:柴田 勝家 早川書房 Amazon 人は自分の見えないものを想像して、そこに見えない敵を作る。けれども、この国では、想像を人に言うことをの愚かさを誰もが知っているから、そこで争うことはないのだ。 ジョンは他の…

パンを軽視すると薔薇も枯れます 『そろそろ左派は<経済>を語ろう』を読む

そろそろ左派は〈経済〉を語ろう――レフト3.0の政治経済学 作者:ブレイディ みかこ,松尾 匡,北田 暁大 亜紀書房 Amazon そもそもおれは経済を語れない。算数がわからないからだ。 blog.tinect.jp ただ、算数はわからなくても、政治や社会については、文系の読…

われわれ躁鬱人? 坂口恭平『躁鬱大学』を読む

躁鬱大学―気分の波で悩んでいるのは、あなただけではありません― 作者:坂口恭平 新潮社 Amazon おれは双極性障害者である。医師に診断され、それ用の薬も処方され、精神障害者保健福祉手帳も持っているので、客観的に認められていると言ってもいいだろう。人…

おれの好きな小説10選

はてなブログ10周年特別お題「好きな◯◯10選」 さようなら、ギャングたち 夜の果てへの旅 チャンピオンたちの朝食 高丘親王航海記 ニューロマンサー 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド ユービック 愛その他の悪霊について パルプ 不安の書 ……うーん…

大原まり子『戦争を演じた神々たち』を読む

戦争を演じた神々たち[全] 作者:大原 まり子 クリーク・アンド・リバー社 Amazon おれはあまり昔からのSFファンではない。SFファンと呼べるかどうかもあやしい。絶対に千冊読んでいないだろう。 というわけで、この間、「大原まり子」という名前を知った。…

ひさびさにSF 藤井太洋『公正的戦闘規範』を読む

公正的戦闘規範 (ハヤカワ文庫JA) 作者:藤井 太洋 早川書房 Amazon たぶん、ひさびさにSFを読んだ。『公正的戦闘規範』。短編集。正統派、現代的、そして日本のSFだ。日本のSFだけれど、舞台が日本とは限らない。表題作の舞台は中国だ。そして話の中心になる…

坂口恭平『自分の薬をつくる』を読む

自分の薬をつくる 作者:恭平, 坂口 晶文社 Amazon 坂口恭平。おれと同世代で、おれと同じ双極性障害(躁うつ病)を患っている。それだけで気になる存在である。それ以外に共通項はなにもないかもしれないけれど、病気の人間とはそういうものである。 坂口恭…

『イニシエーション・ラブ』について

イニシエーション・ラブ (文春文庫) 作者:乾 くるみ 文藝春秋 Amazon おれは『イニシエーション・ラブ』という作品をまったく知らなかった。作品が発表されたときも、テレビで取り上げられて大ブレイクしたのも知らなかった。おれは最新の小説についてアンテ…

なぜ君は立候補しないのか? 『黙殺 報じられない無頼系独立候補たちの戦い』を読む

またまた寄稿いたしました。 blog.tinect.jp 自民党総裁選の翌日というのは偶然だと思います。 選挙の話になります。 お読みいただけましたか? ……というわけで、この本の感想のようなものになっています。 黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い (集…

深町秋生『ジャックナイフ・ガール 桐崎マヤの疾走』を読む

ジャックナイフ・ガール 桐崎マヤの疾走 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ) 作者:深町 秋生 宝島社 Amazon 深町先生の著書である。おれは深町先生の著書を愛するものであるが、「あれ、このシリーズどこまで読んだっけ?」とかなって、「これは読んでい…