読書

池澤夏樹『アトミックス・ボックス』を読む ……なんというか、普通だな

アトミック・ボックス (角川文庫) 作者:池澤 夏樹 発売日: 2017/02/25 メディア: 文庫 父には知らない顔があった。美汐、27歳。28年前の父の罪を負って娘は逃げる、逃げる。追ってくる相手はあまりにも大きい──。「核」をめぐる究極のポリティカル・サスペン…

タルホ的、あくまでタルホ的な

こんな本があった。 稲垣足穂詩文集 (講談社文芸文庫) 作者:稲垣 足穂 発売日: 2020/03/12 メディア: 文庫 まあ、稲垣足穂については本人が言うところのこれに尽きるのだが。 この物語を書いたのが十九歳の時で、以来五十年、私が折りにふれてつづってきたの…

穂村弘『にょっ記』を読む。

おれは穂村弘のことはよく知らない。よく知らないが、高橋源一郎の文章で何回か名前を見たことはある。本棚で『にょっ記』という本を見かけたので、手にとってみる。すると、こんな文章が目に入る。 4月3日 武蔵丸 武蔵丸の夢をみる。 夢のなかで武蔵丸は悲…

植物の名前を知ってる方がモテそうな気がする 『ヘンな名前の植物』を読む

ヘンな名前の植物 作者:藤井 義晴 発売日: 2019/04/17 メディア: 単行本 植物の名前を知ってる方がモテると思う。銑鉄について知っているより植物の方がいい。 「あれはヘクソカズラの花だね」 「キチガイナスビの実がなっているよ」 「立派なヨグソミネバリ…

ルソー『人間不平等起源論』を読む

人間不平等起源論 (光文社古典新訳文庫) 作者:ジャン=ジャック ルソー 発売日: 2008/08/07 メディア: 文庫 所有という観念の発生 ある広さの土地に囲いを作って、これはわたしのものだと宣言することを思いつき、それを信じてしまうほど素朴な人々をみいだし…

『石牟礼道子追悼文集 残夢童女』を読む

そして三、四年前石牟礼さんの所に週に一度行って手足になってくれと渡辺京二さんに頼まれて、久しぶりに石牟礼さんの周りをうろつくことになった。今度も「おまえヒマそうだな」なのだ。石牟礼さんに会うとやがて「ワガママ、気まぐれ、思いつき大明神」と…

アメリカの黒人はどう扱われたのか? 小説『地下鉄道』を読む

地下鉄道 (ハヤカワepi文庫) 作者:コルソン ホワイトヘッド 発売日: 2020/10/15 メディア: Kindle版 ピュリッツァー賞、全米図書賞、アーサー・C・クラーク賞、カーネギー・メダル・フォー・フィクション受賞。19世紀初頭のアメリカ。南部のジョージア州にあ…

またいつか澁澤龍彦を読み返したい―『澁澤龍彦玉手匣』を読む

澁澤龍彦玉手匣 作者:龍彦, 澁澤 発売日: 2017/07/27 メディア: 単行本 作家に長篇型と短編型があるとすれば、私は明らかに後者であろう。だから極端にいうと、たとえば原稿用紙一枚か二枚の推薦文などに、私のもっとも得意とする領分があるのではないかと思…

池澤夏樹『双頭の船』を読む

双頭の船 作者:池澤 夏樹 メディア: 単行本 双頭の船とは、要するに両頭船のことであり、あっちが前か、こっちが前か、どっちも前だというフェリーのことである。 主人公は、恩師のすすめでこの双頭の船に乗ることになる。行き先は北だ。北のどこだ。被災地…

『こち亀』愛憎 「『こち亀』社会論」(稲田豊史)を読む

『こち亀』社会論 超一級の文化史料を読み解く 作者:稲田 豊史 発売日: 2020/09/12 メディア: 単行本(ソフトカバー) 『こち亀』とおれ、おれと『こち亀』。それについては日記に書いてきたので、気になるなら読まれたい。 goldhead.hatenablog.com 最初に…

とこでニッサって誰だ? 『植物のあっぱれな生き方 生を全うする驚異のしくみ』(田中修)を読む

こないだ、はてな匿名ダイアリーで「植物が怖い」という人がいた。 自分は植物恐怖症です。というより、お前らなんで植物怖くないの?? アイツラは生きている。 大量の花が同じ場所で何日も何ヶ月もずっと空を見ているんだ。 何を考えているのかわからない…

自分の内と外とは? 『記憶する体』を読む

記憶する体 作者:伊藤亜紗 発売日: 2020/04/15 メディア: Kindle版 おれが「身体」と書いたら、「からだ」とルビをふるのが正しいと言っておきたい。おれは身体について興味がある。これだけ書くとへんな感じだが、なんというか、自分も含めた人間というもの…

反出生主義者はへこたれない 森岡正博『生まれてこないほうが良かったのか?』を読む

生まれてこないほうが良かったのか? ――生命の哲学へ! (筑摩選書) 作者:正博, 森岡 発売日: 2020/10/15 メディア: 単行本(ソフトカバー) おれは反出生主義者を自認している。 おれの反出生主義は、シオランを読んで目覚めたものでもなければ、べネターを読…

小川一水『コロロギ岳から木星トロヤへ』を読む

コロロギ岳から木星トロヤへ 作者:小川一水 発売日: 2013/11/15 メディア: Kindle版 おれは小川一水の『天冥の標』を読んだ。すばらしい読書体験だった。小川一水はほかに二冊くらい読んだかもしれない。『コロロギ岳から木星トロヤへ』は未読だった。未読だ…

オストアンデル! 『俗語発掘記 消えたことば辞典』を読む

俗語発掘記 消えたことば辞典 (講談社選書メチエ) 作者:米川明彦 発売日: 2016/12/23 メディア: Kindle版 広大なネットのどこでなにを読んだのだか忘れてしまったが、「死語おもしろいな!」と思ってこの本を手にとった。あるいは、この本の紹介を読んだのか…

池澤夏樹『スティル・ライフ』を読む

スティル・ライフ (中公文庫) 作者:池澤夏樹 発売日: 2020/09/30 メディア: Kindle版 スティル・ライフ (中公文庫) 作者:池澤 夏樹 発売日: 1991/12/10 メディア: 文庫 おれと池澤夏樹、池澤夏樹とおれ。 おれはこれまでの人生で、とくに池澤夏樹を意識した…

いまさらウイルスについて学ぶ 『ウイルスと人間』、『病原体から見た人間』を読む

いまさらながら「ウイルスってなんだろう?」と思った。なので本を読むことにした。わからないことがあれば本を読む。ロックンロール・バンドとウェブサイトは信じちゃいけない。 もっとも、ろくでもないインチキが書かれている本も数多く出版されているのだ…

幻覚剤を使わない人生に意味はあるのか? 『幻覚剤は役に立つのか』を読む

幻覚剤は役に立つのか 亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ 作者:マイケル・ポーラン 発売日: 2020/06/26 メディア: Kindle版 原題は「HOW TO CHANGE YOUR MIND」。邦題は『幻覚剤は役に立つのか』。幻覚剤は役に立つのか? 役に立つに決まってんだろ。…

石牟礼道子『色のない虹』を読む

石牟礼道子<句・画>集 色のない虹 作者:石牟礼道子 発売日: 2020/02/15 メディア: 単行本 石牟礼道子の作品に向かい合うのはたいへんな力がいる。が、〈句・画〉集ならどうか? そう思った。 思いのほか力が必要だった。まず、おどろかされるのが画だろう。…

『かなざわいっせいさんの仕事』を読み涙する

かなざわいっせいさんの仕事 作者:「かなざわいっせいさんの仕事」製作委員会 発売日: 2020/12/19 メディア: 単行本(ソフトカバー) おれの競馬の初めには、別冊宝島競馬読本があった。 ついてこられない人間は置き去りにする。 別冊宝島競馬読本は、ムック…

石牟礼道子に相対するには力が要る 『水はみどろの宮』を読む

水はみどろの宮 (福音館文庫 物語) 作者:石牟礼 道子 発売日: 2016/03/10 メディア: 単行本 おれは石牟礼道子を偉大な文学者にして「おばあさま」のような存在と思っている。しかし、全部読んだとは言い難い。むしろ、あまり読んでいないといってもいいかも…

ビギナーズ・クラシックス日本の古典『梁塵秘抄』を読む

梁塵秘抄 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 (角川ソフィア文庫) 作者:後白河院 発売日: 2012/11/05 メディア: Kindle版 石牟礼道子と伊藤比呂美の対談本を読んだ。その対談の真ん中に置いてあるような本が『梁塵秘抄』だった。 反出生主義者が、「死」に…

高村薫の頼まれ仕事『空海』を読む

空海 作者:高村 薫 発売日: 2015/09/30 メディア: 単行本 goldhead.hatenablog.com 『生死の覚悟』のなかで、高村薫が空海について書いた本があることを知った。頼まれ仕事で、そんなに熱心になったわけでもないような空気が伝わってきた。それでも一応、読…

生と死の二冊の対談本について

blog.tinect.jp またBooks&Appsさんに寄稿させていただきました。また場違いな話なような気もしますが、ありがたいことです。よろしくお願いいたします。 新版 死を想う (平凡社新書0884) 作者:石牟礼 道子,伊藤 比呂美 発売日: 2018/07/13 メディア: Kindle…

信心は言葉で表せるのか? 高村薫・南直哉『生死の覚悟』を読む

生死の覚悟 (新潮新書) 作者:髙村薫/南直哉 発売日: 2019/05/15 メディア: 新書 高村薫とおれ、おれと高村薫。若いころ、高村薫の小説に打ちのめされていた。とくに衝撃だったのは小説『レディ・ジョーカー』での競馬場シーン(たしかアジュディケーターが走…

『街の公共サインを点検する』を読むのこと

たまには仕事に関する本も読む 街の公共サインを点検する 作者:弘之, 本田,一成, 岩田,秀男, 倉林 発売日: 2017/07/25 メディア: 単行本 これは読んでみなくちゃな、と思っていた本である。が、実際に読んでみると、そこまで読んでみなくちゃな、と思う必要…

戦闘民族日本人がまた髪の話してる……『カミが見ていた世界の歴史 魔女の黒髪 天使の金髪』を読む

「なんで日本人はちょんまげなんて珍妙な髪型をしていたのだろう?」という疑問は昔から持っていた。持っていたが、べつに喫緊の課題というわけでもなく、「お前も元服したのだから」という話もなく、放っておいた。 放っておいたところで、やはり何十年越し…

ドーダの誕生、そして文章術 東海林さだお『もっとコロッケな日本語を』

もっとコロッケな日本語を (文春文庫) 作者:東海林 さだお 発売日: 2006/06/09 メディア: 文庫 会話というものがありますね。 急に、ありますね、なんて言われて、 「あるよ、そりゃあ」 と怒り出す人もいるかもしれないが、ま、落ちついてください。 人間は…

鈴木智彦『サカナとヤクザ』を読む

サカナとヤクザ ~暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う~ 作者:鈴木智彦 発売日: 2018/11/02 メディア: Kindle版 午後10時過ぎ、役員はカウンターで白河夜船となった。目を覚ました際に、「築地で密漁アワビは売ってるんですか?」と質問した。 「ああ…

人は案外死なないけれど、簡単に殺せたりもする 鈴木智彦『全員死刑』を読む

全員死刑: 大牟田4人殺害事件「死刑囚」獄中手記 (小学館文庫) 作者:智彦, 鈴木 発売日: 2017/11/07 メディア: 文庫 全員死刑、である。どこの全員か。九州のヤクザ家族四人、父、母、兄、弟の全員が死刑判決を受けた。これである。その「弟」の手記が中心と…