ある遺精についての告白

こんな記事を読んだ。

anond.hatelabo.jp

 

なんら性的な場面ではないのにいきかけた女性の体験談である。むろん、はてな匿名ダイアリーに書かれたものなので、どこのだれが書いたものかもわからないし、体験談でないかもしれない。それを承知でおれが思ったのは、「人体とは不思議なものだな」ということだ。

 

女性が性的な場面でもないのにいきかける。では、男性はどうだろう。おれは同じく、はてな匿名ダイアリーのある記事を思い出した。

 

anond.hatelabo.jp

 

この記事である。この記事の本題は「後輩と仲良くしているつもりだったが、ハラスメントであると職場に訴えられた」ということだが、問題は次の記述だ。

 

もう1年以上よく遊んでた仲が良い(と思ってた)同性の後輩がいた。年齢は一回りくらい離れてる。

そいつが突然人事に駆け込み、プライベートまで介入してくると泣きついて異動させられた。

 

終始「いかにも深刻な聴取をしてます」といった感じの様子の人事が見守る中、その後輩のLINEや電話番号やアドレスを全削除させられたうえで連絡禁止を命じられたとき、ショックのあまりに猛烈な射精感に襲われて直後、3秒くらい視力と聴力を完全に失った。

 

「ショックのあまり強烈な射精感に襲われて」、これである。これについて、はてなブックマーク上では「射精感ってなんだ? 釣りでは?」みたいな反応があった。それに対して増田(はてな匿名ダイアリーの書き手をそう呼ぶ)はこう述べている。

射精感は焦燥感の誤変換ではない。そのまま射精感。

まんまこれ

https://oshiete.goo.ne.jp/qa/13031776.html?check_ok=1

他はどうでもええわ好き勝手言って

 

この増田は「遺精」であると言っている。おれは「遺精」という言葉は知らなかった。

遺精とは

昼間遺精は、長期の禁欲などをベースに、昼間の覚醒時に、緊張などをトリガーに発生するものです。
緊張などの精神因子が、精液の後部尿道への輸送を司る脊髄反射を惹起させ、 同生理現象を引き起こします。

 

おれには、その経験が、ある。

 

ときは三十年くらいさかのぼる。おれが中学生だったころだ。精通はしていた。というか、自慰行為に夢中になりすぎていたころだったといってよい。そのころの話だ。

 

それは定期テストでのことだった。科目はおれの苦手な理系だった。おれは文系科目は得意としていたが、理数系はさっぱりのさっぱりだった。さっぱりのさっぱりだったくせに、県内で最下位だった中高一貫校に滑り込んだ人間だ。むろん、滑り込んだあとも理系はまったくの苦手だった。

 

で、理系のテストだ。数学のような気もするが、なにかの理科だったかもしれない。開始時刻とともに問題文を見る。まったくわからない。なにもかもわからない。それなりに一夜漬けしてきたかもしれないが、一問目からまるでわかりそうもないのだ。

 

おれはパニックになった。0点を取ってしまうのではないかと思った。一瞬で頭の中がそれでいっぱいになった。

 

そのときだ。まさにその瞬間、射精感におそわれたのだ。たってすらいない。たってすらいないのに、ドクドクと股間で脈打つものを感じた。おれは、いってしまったのだ。

 

が、そのあとは気持ちが落ち着いた。賢者タイムといってもいいだろうか。パニックがおさまったのだ。

 

しかし、この反応について、おれは不思議には思わなかった。保健体育の授業で習っていたからだ。たぶん「遺精」という言葉は使われなかっただろう。ただ、パニックになったとき、いってしまうことがあると体育教師が言っていた。男子校のざっくばらんな保健体育だ。それを覚えていた。これって進研ゼミで読んだやつだ。

 

その結果……、べつにそのテストでよい点を取ったわけではない。でも、赤点にはならなかった。おれは中高で赤点をとったことは一度もなかった。なので、その射精感が一役買ったのは間違いないだろう。

 

問題は、事後である。そのテストの時間が終わると、おれは急いでトイレへ行った。股間に染みを作っていたら、なにを言われるかわからない。同級生には、入学直後に何回も鼻血を出したために「鼻血」というあだ名をつけられたやつもいた。なぜか転訛して、途中から「はなず」と呼ばれていたが。まあいい、股間に染みを作っては、「鼻血」どころではなかろう。

 

で、トイレに行ってパンツをめくった。が、射精の痕跡はいっさいなかった。少し濡れているというようなこともなかった。カウパー氏も挨拶したふうではなかった。おれは二度目の衝撃を受けた。

 

以上が、おれの遺精についての体験談である。射精感はあるのに、射精はしていなかった。ドライなんとかというのかもしれない。いまとなってはわからない。ただ、あのときおれはたしかに極度のパニックからドクドクを感じたし、そのあと落ち着いた。太古の男性が、獣に襲われてパニックになったとき、精神を落ち着かせるために働いた機序の名残りかもしれない。そんな進化心理学は読んだことがない。でも、そういうものだと今でも思っている。

 

男の身体には、というと主語が大きすぎるかもしれない。でも、こういうことを体験する人間もいる、ということは一番小さな主語で語っておきたい。これによって二人の増田が救われるともどうとも思わないが。