増田俊也×中井祐樹『本当の強さとは何か』を読む

 

本当の強さとは何か

本当の強さとは何か

 

中井祐樹。地上波に乗る格闘技を見ていただけのおれには、なんとなく知っているだけの人物だ。伝説上の人物だ。バーリトゥードの退会で片目を失明しながら勝ち進み、ヒクソン・グレイシーに挑んだ男。

それが、名著『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』の著者である増田俊也の大学の後輩であり、同時に七帝柔道の後輩でもあったということなど知りもしなかった。

その、両者の対談である。タイトルからして、精神論とか一般論に行くのかな? と思わせながら、そういうところもありつつ、格闘技論に傾いている本である。おれは地上波に乗る格闘技を見る程度の人間だが、興味深く読めた。

中井 これだけははっきり言えますけど、自分の力が及ばない本当の原因があるとしたら、やっぱり自分が描けていないんですよ、そこに行く姿を。

増田 それはよく言うよね。中井は。いろんなところで発現してるけど。

中井 はい。「UFCチャンピオンになります」って言っても絶対になれないです。絶対無理です。「UFC出たいです」、出れないです。絶対無理です。20回くらい防衛して、アメリカで大スターになって、アメリカの舗道に手形を残すスーパースターになってる自分を描くぐらいの突き抜けた練習量、突き抜けた非合理的な努力をしないと絶対に無理です。

これを読んで思い出したのが、いつかどこかで読んだ競馬の牧場の話。「ダービー馬をつくろうと思ってようやく1勝馬ができる」そんなことを言っていた。もちろん、中央500万条件馬をつくろうとしたら、未勝利に終わる、そんな話。

しかしまあ、夢が大きいだけでは、たんなるホラ吹きだ。「突き抜けた練習量」、「非合理的な努力」。これである。非合理という点では、体罰についても弟子の側から「殴ってください」と言われたらどうする、というような話をしている。

とはいえ、中井が日本の第一人者として広めたブラジリアン柔術。その道場というと、わりとフレンドリーというか、リラックスというか、そういう雰囲気にあるという。そして、ブラジリアン柔術はおたくの格闘技である、とも。なるほど、どこか詰将棋のようなところのある寝技の応酬。ネットで即座に新技やその対策が動画で見られるあたりも、将棋に似ているのだろうか。まあ、そもそも、グレイシー柔術については、あまり身体的に恵まれていないエリオ・グレイシー創始者であることからも、弱者のための格闘技、という面もあるそうだ。

さて、話は柔道と柔術の話などにもなるが……。検索したらいいページが出てきた。

www.nhk.or.jp

リオ五輪前の記事だが、増田俊也がゲスト出演している。この記事によると、井上康生ブラジリアン柔術はもちろん、チダオバ(ジョージアの格闘技。栃ノ心おめでとう!)やモンゴル相撲などの技に対応すべく、日本柔道に積極的に取り入れているようだ。

もう五輪の柔道の舞台が、世界の着衣・服を着た、組み技格闘技の「異種格闘技」、「天下一武道会」のようになってしまっている。

面白いし、すげえな、と。柔道など学校の授業でやらされたくらいしか経験のないおれが言うのもなんだけれど、日本の柔道は日本の柔道として、あるいは七帝柔道は七帝柔道であっていいが、それら柔道を舞台に天下一武道会やるんなら、それはおもしろい。

柔道は組技格闘技の天下一、相撲は力自慢の天下一、そんなんでいいじゃないか。たとえ日本人が勝てなくても、その舞台を用意したのが日本という国であれば、それはそれで悪くないなという気はするのだ。

それはそうと、「本当の強さ」の話だ。増田俊也合気道に興味が出てきたという。ある巧妙な柔道家の最後の揮毫は「仲良し」だったという。戦わないのが最強の護身。本書に名前の出て来る板垣恵介の「護身完成!」とでもいうべきか。合気道のトップクラスは本当に強いとも言っている(こないだ有吉弘行の番組でドランクドラゴン鈴木拓合気道を完全無視していたけれど……そういや鈴木は柔術やってんだっけ。関係ないか)。

まあ、とはいえ、女性などにとって合気道が護身術として最良かといえばそうとも言えず、やはり体格差というものは覆しにくいものとも言う。武器があったほうが、となって、中井が「短い傘があれば戦えますね」と断言していたが、まあスタンガンでもいいんじゃねえの、とかおれは思うが。しかし、その体格差の話題になったとき、増田が女性の声として20センチ30センチ大きい男に囲まれて生きるというのは、荒くれ者の巨人の国にいる感覚だ、と述べていた。そして、

176センチの俺からしたら、20センチ大きいといったら196センチ、30センチ大きいといったら206センチ、そんな人間は滅多にいないわけだから、相撲部屋で関取ばかりの部屋、あるいはアントニオ猪木坂口征二が選手だったころの新日本プロレスで毎日一緒に暮らしているようなもんだよ。

と。それはたしかに怖いな。とはいえ、おれは男ではあるけれども身長は160センチちょいの小柄だから、176センチでも充分に大きく感じるだろう。思えば、中高生のころ、「体格差があるのに喧嘩になったら不利だろう。ハンデが必要だ」という理由でナイフなど持ち歩いていたっけ。隠したナイフが似合うおれだった。これなんか「本当の強さ」とは本当に程遠いよな、まったく。

まあ、そんなところで。

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まあ、ヒグマは本当に強そうだ。

 

d.hatena.ne.jp

これは本当に強い本。すごかった。