シモーヌ・ヴェイユ『工場日記』を読む

 

 

シモーヌ・ヴェイユの『工場日記』を読んでみた。

月曜―火曜――ねじ、C4×16、鉄/4フラン50で5000個プラス賞金1フラン/フライス1号、7010III/013252、フランジ固定。M・P・Rねじ、鋼鉄、5フラン80で4000個プラス賞金2フラン、1.5/747327/046543。

(漢数字は算用数字に変換)

……というようなことがほとんどを占める。まさに「工場日記」だ。

シモーヌ・ヴェイユと工場。工場労働とシモーヌ・ヴェイユ

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ヴェイユの工場労働経験は、ヴェイユを語るにあたって避けられないし、避けてはいけないものであろう。

わたしは少なくともヴェイユが「工場体験」からつかみとった体験の感覚と精神の働きは、現在でも無効ではないとおもう。

吉本隆明もこう言っている。

というわけで、「工場体験」を書き記したものを集めたのが『工場日記』である。この文庫本のほとんどが、最初に引用したような工場労働の内訳である。それだけ、ヴェイユが工場労働に立ち向かっていたという証左ではあろうが、まあ今それを読んだところでというところはある。正直。

では、やはりヴェイユがところどころに書き残した労働やその他に関する実際的でない考察について注目すべきだろうか。

――もう少しのところで、わたしは、労働者のたましいの救いは、何よりも第一に、体力にかかっていると結論したくなる。たくましくもない人たちが、なんらかの絶望的な状況におちこまずにすませるとは、とても思えない。――たとえば、酒に酔うこと、浮浪化、犯罪、放蕩、あるいはまた、たいていの場合がそうであるように、考える力の麻痺――(そして、宗教もそうではないか)。

もう少しのところではあるが、筋肉は正義、というところに気づいている。ヴェイユにはもって生まれた身体の弱さがあった。おれも強くない。となると、「酒に酔うこと」におちこむのも当然のことなのである。

 

自分がしている仕事が、いったい何に使われるのかをまったく知らないでいることは、非常に意気をくじけさせるものである。自分がいろいろと力をつくしているところから、一つの生産物が生まれい出てくるのだという感じをいだくことができないからである。

工場労働についての考察である。おれは工場労働者ではないし、幸いにして「いったい何につかわれるのか」を目にすることができるデザイナー的な労働をしているが、なにになっているのかわからないのも辛いと思う。だが、何になるのかわかっていても、その稼ぎが非常に低いということも辛いものである。

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 疑問、「どんな運動をも自分でなしうる自動機械」をつくり出すことができるだろうか。どうして、できないわけがあろうか。

 理想、第一に人間は、ものに対してだけ権威をもつべきであって、人間が人間に対して権威をもってはならないということ。

 第二に、仕事において、一つの思想の行動への翻訳の形をとらないものはすべて、ものにゆだねられるべきこと。

ヴェイユが工場労働を体験したころにくらべて、「自動機械」は大いに発展したことと思う。それはもう、かなりそうとうに、たぶん。それでも、人間が人間に対して権威をもって人が人をいじめる構図はまだまだ存在しているのではなかろうか。このあたり、おれは工場労働をしていないのでわからない。

 

ただ、わたしは思うの、ボリシェヴィキの大指導者たちは自由な労働者階級をつくり上げるんだと主張しているけれど、かれらの中のだれも、――トロツキイはもちろんそうだし、レーニンもそうだと思う、――たぶん、工場の中へ足をふみ入れたことすらないのよ。したがって、労働者たちにとってどういう条件が屈従と自由をつくり出しているのか、その真相はこれっぽっちも知っていないありさまなのよ、――そう思うと、政治なんて、ろくでもない冗談ごとのようにみえてくるわ。

なぜ、手紙の箇所になると役割語が強くなるのかわからないのだけれど、ここのところの指摘があるから、ヴェイユは現代にも通用する力を持っていると思うのだわ。なにもすべて現場の労働を体験しなければいけないなんてことはないと思うの。でも、ヴェイユのような感受性と知性を持った人間が工場労働をしたという事実、それについて書き残した事実を無視してはならないと思うのよ。それは、いきった女性思想家が思いつきで飛びついた体験なんていうものとは、ちょっと一味違うのよ。生来やべえやつが、やべえ体験をしてみたってことなの。そのあたり、この本は面白いけれど、まあしかし、べつにほかのヴェイユ本を読むより先に読むことはないと思うのよ。

 

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男盛りの強健な男たちが、地下鉄の座席で眠りこけてしまうのだ - 関内関外日記