スーパー猫の日

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昔、どこかの猫カフェ

おれが不老町の交差点を渡ろうとしたときのことだった。おれは閃輝暗点で目の前がよく見えなくなっていたうえに、ひどい頭痛に襲われていた。

ゴツン! おれはなにかにぶつかった。信号は青だったはずだが……。おれが見上げると、そこにはKV-2がそびえ立っていた。

ドッゴーン!

152mm榴弾砲が放たれる。空気が震動する。木っ端微塵になる陸自の74式。そして、「ウラー!」という掛け声とともにコサックたちが横浜市民兵に襲いかかる。対する横浜市民兵は「宮さん宮さん」を流しながら進撃を開始した。

巻き込まれてしまったおれは、とりあえずモスバーガーの中に逃れた。

「ソイモス野菜バーガーのオニポテ・ドリンクセット。飲み物はジンジャーエールで」

窓の外では血を血で洗う戦いが繰り広げられていた。ジンジャーエールを久しぶりに飲んだがこんな味だったっけな。空中で弾丸と弾丸がぶつかるのが見えた。あるいは閃輝暗点が見せた幻だったのかもしれない。おれはジンジャーエールレキソタンを一錠飲み干した。

ロシアがドネツク、ルガンスクの独立を認めてからどれだけのときが経っただろう。あのとき、猫たちの反応は早かった。ウクライナ中の猫が西に向かって逃げ出した。ウクライナ人たちが「そりゃあ薄情じゃないか」と言ったら、猫は「ウクライナは滅びず、にゃー」と応えたという。

猫たちはポーランドハンガリールーマニア……それぞれの地に散っていった。ある猫たちの集団はあたたかなギリシアで魚にありつこうとしたし、気取った猫はウィーンを目指したという。

どぉん!

モスバーガーが揺れた。見ると、KV-2が大破している。おそらくは、山下公園氷川丸からの砲撃が直撃したのだ。すると、「宮さん宮さん」のビートはさらに激しくなった。横浜スタジアムを踏み越えてやってくるのは……ガンダム! ガンダムの威容にはコサックどもも恐れをなした。そこへ横浜市民兵のタチャンカが奇襲をかける。重機関銃がコサックどもをなぎ倒していく。局地的には勝利を収めたようだ。

おれはゴミを捨て、トレイを戻し、店を出ようとした。すれ違いに寝起きの猫が一匹入ってきて、海老カツバーガーを注文した。

おれは頭痛の余韻を残しながら、寿町の方へずったらずったら歩き始めた。足元に鼓笛隊の太鼓が転がっていたので、なんとはなしに蹴飛ばすと、少しよい音を出して、跳ねた。