さて、帰るか

 

そもそもおれたちは銀河の東の方から放逐されてここにいる。おれたちは一人ひとり箱詰めされて、発送されたのをすっかり忘れてしまって、この大地も植物も水のなかのいきものも、自分たちの仲間のような気分でいる。緩衝材とともにここに送られてきて、開封されて空気というものを初めてすったのに、そんなことなかったように暮らしている。コンビニでパンを買ったら、レジから「クーポンが発券されました」という声が聞こえて、おれはペット・ボトルのブラック・コーヒーを一本もらった。そんなことがもう一度あって、いよいよおれの栄光はきわまって、ボスポラス海峡より東の教会をすべて統治するのではないかと思った。その後、おれは真実を知る。350円以上買えば、必ずもらえるキャンペーンだったのだ。人間の思い上がりとはこのようにみにくい。みにくさから目を逸らそうとして無駄なことばかりしている。ガマガエル片手に草地に寝っ転がって駄々をこねたり、全裸でタクシー強盗をしようとしたりする。すべて銀河に放逐された失望と空虚が原因なのを知らないで、そうしている。みんながみんなそうしている。みんながみんなで全裸で笑っているので、おれは「笑っていいとも!」と言った。今どきの若者はタモリのこともしらない。おれは恥をかいたイグアナみたいな気持ちになって、一人で夜の森に帰っていった。森の中には恥辱のけもの道ができていた。おれはその道を一人歩いた。AIと気の利いた会話のひとつでもしようとデバイスを取り出すが、バッテリーの残量が38%だったのでやめた。バッテリーの残量が50%を切ると、おれはもう取り戻しのつかない失敗をしたような気になってしまう。自転車に乗って早く家に帰らなくてはいけない。そのとき、おれの自転車の速度は限りなく光速に近づく。そのときおれが何色で観測されるのかはしらない。栄光と没落、名誉と恥辱、追放と帰還。おまえたちはそんなこともしらないで、明日着る服のことを考えている。明日がくるのかわからないのに考えている。明日のラッキー・カラーはカーキ色、ラッキー・アイテムは八重樫のサイン入りバット。みんながみんな、宮﨑敏郎みたいなバット・コントロールで二塁手の頭を超える右打ちをしたいと思っている。そのために人は生き、人は死ぬ。だからといって宮﨑敏郎が根源の存在だというわけではない。宮﨑敏郎だって銀河の東の方で梱包されて、ここに送られてきたのだ。赤帽のトラックで、とても丁寧に。受け取り印をおしたやつがだれなのか、それを問うべきだ。今こそ問うべきだ。それがおれたち全員の叛逆のはじまりになる。見える限りの青空と海をすべておまえにやろう。おまえはおれにアルファベットの読み方を教えてくれればいい。知識は伝えなくてはならない。電子音のなかにまみれて、そのことを忘れてしまった孤独な高僧が一人、砂漠を歩き始めた。かれは水がなくて死んでしまった。井戸の底には龍が口を開けて待っている。おまえは木の枝にぶら下がって、ただ食われるのを待っている。木の枝を、二匹の鼠がかじる。蜜の流れる大地を目指していたはずなのに、鶴見川の近くに出てしまった。どうやって帰ったらいいのだろうか。とりあえずランドマークタワーを目指す。江戸時代より前の書物にも記されていることだ。水は持ったか? 水は持った。カーキ色のジャケットを着て、ラッキー・ナンバーすっかり忘れてしまって、それでおれはベッドの上で動けないまま午前中を過ごしてしまった。それでも二時半には会社にいるだろう。もう四月も終わる。永遠の十三月までもう少しだ。