高橋ユキ『つけびの村 噂が5人を殺したのか』(書籍版)を読んだ

 

 

少し前にネットで話題になっていた話かな? と思った。その通りで、著者がいろいろの出版社に持ち込んだが売れず、noteで販売してみたが、それでも反応は少なく……と、思っていたら、いきなり売れたという話であった。そして書籍化とあいなった。noteで話題になったときは、課金しなかったものの、無料部分を興味持って読んだ覚えはあった。

 

内容はといえば、2013年に山口県周南市の山奥で起きた5人殺害放火事件の真相というか、背景を追うというものである。「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」というフレーズに覚えのある人も多いのではなかろうか。これは、都会から地元に戻って犯行におよんだ犯人の予告のようにもとられたが実際は違う……。

 

このあたりを、十数人の高齢者が残された集落に著者が入り込んで聞き込んで行く。そして、わりとあっさりと集落の老人たちは喋る、喋る。そのことがなかなかの驚きである。そして、その内容がなかなかにわれわれの……都市に住む人間との価値観の違いを感じさせる。

 

そのような、何世代にもわたる「噂」の村社会のなかで、犯人は病んでいったのか。そのあたりは本書を当たられたい。おれなどの、神奈川県鎌倉市というそんなに都会でもないけれど、ど田舎とも言えない土地の、そこそこの新興住宅地で育った人間には、はっきりいってその実態を知りえない、実感がない、というのが本音のところである。

 

一方で、著者は、このような「噂」の構造をインターネットのSNSによる情報拡散にたとえてみせる。おれがこのようにこの本を紹介し、この村のことに触れることも、その一つかもしれない。おれは村の噂話については実感がないが、ネットについてはいくらか古参であって、いくらかはながくブログもやっているのでわかるつもりでいる。して、正直、それとこれが似ているのかどうかについては、いまいちわからないとしか言えない。そうといえばそうかもしれないが、そうなのかなというところもある。取ってつけたような結論、とまでは言わないが、まあわからんというところだ。

 

あとは、まあわからんというところでは、note版では語られなかったことがある。地区の生き字引と呼ばれる90歳近い「生き字引」の古老はこう語っていた。

 

「大きな問題ちゅうのがあるのよ……金峰全員に関係する大きな問題がある。それは、簡単には話せんよ。新聞にも出んし、報道もされんし、そりゃ分からんじゃったんじゃが、わしは最近になって、はあ、それで殺されたんか、ちゅうのが分かった。すべての問題がそこから起こっちょるんよ……」

 

しかし、その古老は「生きている子孫に影響を及ぼしちゃいかん」、「10年経ったら話す」と言ってゆずらなかった。10年経ってこの老人が生きているかどうかわからない。この証言を引き出せるかどうかが、書籍としての本書を〆られるかどうかの際である。

 

その際は……やはり本を読んでみてください。「えー!」となるか「ええ……」となるかはあなた次第だ。

 

という感じなのだが、まあ面白くて一気に読んでしまった。それだけの本であることもはっきりしておこう。ある事件を追った本、ある犯罪者を追った本であると同時に、日本という国の、山奥の村の歴史を追った本でもある。そのあたりは貴重な記録になると信じる。

 

以上。