断片1000文字

銀色に光る三段ギアのブーメランが一速、二速、三速と速度を上げてレイランディの幹を回りながら上昇していく。もう少しで黒装束を捉える、その刹那、炸裂する光! 爆風! 黒装束め、自爆して果てやがる。おれは腕で鼻と口を押さえて煙が入らないようにする。が、お嬢ちゃんの動きは、おれみたいに間抜けじゃなかった。その時にはもう一投ブーメランを虚空に向けて放ったところだった。方向は真っ暗闇、まるで無駄なんじゃなかと思う。が、得物は的確に三段目の速度で黒装束の背中に突き刺さる。断末魔の叫びは聞こえたか聞こえなかったか。城壁にワンバウンドして地面に落ちる黒装束。慌てて駆け寄るがそいつはもう死んじまってた。丁寧に舌を噛み切ってだ。背中からブーメランを回収しながらお嬢さんは無言。おれはやっぱり間抜け面を晒しながら、「いったいこいつはなんなんだ?」と問いかける。おれは自分が底抜けの間抜けに思える。「おまえは知らんでいい」。お嬢さんは冷たく言い放つ。おれがついていくるのは当然という足取りで、宮殿の中心部に向けて歩き始める。間違っちゃいない、おれはそれに従うしかなかった。少し駆け足であとを追う。お嬢がブーメランの血を袖口で拭うのが見える。いったいなんだって、こんなことになっちまったんだ。どこで間違って、刃傷沙汰のまっただなか、それも王さまのお住まいに真夜中に不法侵入してんだ。てめえの不明さにうんざりする。が、それもうんざりする暇があればの話だった。物音に気づいた胸甲歩兵が二人、えらく尖った槍持って目の前に現れやがる。またお嬢さんに頼るのか? そうするほか無いんだ。おれはただの植木屋だ。おまけに剪定鋏ひとつ持ってるわけじゃない。ま、そんなもん持ってたって役に立つわけもねえが。よっぽど振り返って逃げてやろうかと思った。が、そんな判断する前に、片付けられちまってんだ、胸甲歩兵が。すっかり伸びちまって、ぶっ倒れてる。やったのは言うまでもない、お嬢ちゃんだ。暗闇に溶ける黒髪束ねいて、一歩一歩宮殿の中に向かって歩いていきやがる。自信と確信ってやつだ、なんの迷いもない。おれは左右も上下も気にしながら、のこのこくっついていくしかなかった。こっから逃げ出す勇気ってやつがないんだ。これから何が起こるかわかんねえけど、引き返して門番に問い詰められたり、棍棒で小突かれたりするのはごめんだった。所詮、おれはその程度だった。