「静かな」アルコール依存症予備軍が『酒乱になる人、ならない人』を読む

 

酒乱になる人、ならない人 (新潮新書)

酒乱になる人、ならない人 (新潮新書)

 

先日こんな記事に目を通した。

k-tai.watch.impress.co.jp

……先日読んだから先日の記事かと思っていたら、2年前の記事だった。まあいい、そこでこんな風に紹介されていた。

 まず、物凄く参考になったのが「酒乱になる人、ならない人」(Amazon.co.jpへのリンク)。掴みが強めのタイトルで購入してみましたが、遺伝子や脳のメカニズムのレベルでアルコール依存症を説明した先鋭的な本でした。アルコール依存症研究の最先端なども紹介していて、専門的な要素が多くて少し読むのがタイヘンですが、非常に科学的で「そうだったのか!」と驚くことしきり。酒がもたらす脳に対する快楽がいかに強力であるかを知ると、アルコール依存症に対する偏見の多くが払拭されていきます。「凄い本だな~」と思って読んでいたら、筆者はアルコール依存症治療で屈指の医療機関「国立療養所久里浜病院(現国立病院機構久里浜医療センター)」の元神経内科医長でした。

神奈川県民にとってみれば「久里浜=アルコール依存症」というくらいのものであって(サンプル数1)、久里浜の先生ならと読んでみた次第。

とはいえ、本書は2003年の本。上記の記事が2年前だとしても、えーと算数よくわかんないけど結構前の本だ。いや、扱ってる遺伝子や脳のメカニズムという面からいえば、相当昔の本といっていいかもしれない。

なので、本書に何回も出てくる「今後明らかにされるでしょう」とか、「解明が期待されます」とかが2018年の今、解明されちゃったりしているかもしれない。だが、逆に考えてみれば、そのようなフレーズが連発されているということは、「まだわからんことはわからん」という誠実な立場で書かれているということでもある。さすが久里浜である。ただ、確定的に書かれていることがひっくり返ってしまっている可能性もあるが、素人の、どちらかというと高卒のアルコール依存症予備軍が読んだところで、まあとくに影響はないだろう。

いくつか気になったところを適当に。

……日本人について言えば上記のアルコール脱水素酵素の遺伝子多型が3種類、アルデヒド脱水素酵素の遺伝子多型も3種類あって、3×3で9種類に分けられます。これは日本人の酒の強さが9段階に分類されるということです。

アルコールデヒドロゲナーゼ - Wikipedia

アセトアルデヒド脱水素酵素 - Wikipedia

これとこれけ? なんで前者をアルコール脱水素酵素にしないのか? 後者をアルデヒドヒドロゲナーゼにしないのか? 統一しようという気はないのか(※追記:「アルデヒドデヒドロゲナーゼ」の項目もあって「重複してるから統合しろ」みたいなこと書いてあった)? まあいい、どうもそういうことらしい(なにもわかっていない)。ともかく9種類に分けられるらしい。この9種類で朝のワイドショーの占いコーナーでも、人格占いでもやったらどうだろうか……というようなことはHLAについても12年前に言ってるのだからおれは成長しない。

『生命の意味論』多田富雄 その2 - 関内関外日記(跡地)

でもって、本当かインチキかわかんないからリンク貼らないけど「アルコール 9分類」とかで検索すると、上記2つの遺伝子検査ができるキットが5,000円ちょっとで売られたりしている。もし有効であるならば、成人したと同時に無料で検査できるくらいのことはしていいかもしれないが、まあ日本は酒に甘い。そんなことよりもともかく飲ませて酒税を取りたい経済状況、かもしれない(酒による経済的損失と比べるべき、なのが正しいのだろうが)。

でもって、「酔い」とはなんなのか。

……最近の研究はエタノールが脳に作用する他の薬と同様に、神経細胞の細胞膜に存在するさまざまな神経伝達物質の受容体に作用していることが「酔い」の原因であることを示唆しています。

 ふーむ。このあたりの最近の最近はどうなんだろ?

と、ググる厚生労働省のサイトが上の方に出てくるあたりが最近の流れ。

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-02-003.html

いわゆる精神安定剤は作用する神経伝達物質の結合部位(受容体)が決まっていて特定の受容体に働いてその効果を発揮します。ところがアルコールの作用部位については決まったところがありません。通常飲酒する程度の濃度ですとアルコールは受容体を構成する蛋白に結合して機能を変化させることが示されています[1]。神経伝達物質としては中脳辺縁系側坐核におけるドパミン放出の増加が有名です[2]。その他にも興奮性アミノ酸受容体(NMDA)やGABA受容体などがアルコールの影響を受けるとされていますが、詳しいことは十分には解明されていません。

うむ、本書でも上の続きでギャバ受容体とNMDA受容体の話をしているのでこんなところなのだろう。そしてまた、「十分には解明されていません」か。

……まあ、なんというか、はっきりいって、今、このおれが、アルコール依存症なのかどうか、なるのかどうか、ならないすべはあるのか、について、アルコールの脳への機序の解明が必要だろうか? よくわからない。ただ、今おれはシラフだよ。ジラフはキリンさんだよ。

そんでもって、アルコール依存症という病気が遺伝するのかどうかというと、する、ということらしい。精神疾患の本なんかを読んでいるとよく出てくる一卵性双生児と二卵性双生児の一致率、というやつからわかったらしい。

ちなみに、急にアナログな話になるが、おれの母は一滴も酒が飲めない。飲んだ途端に発疹が出てぶっ倒れる。というか、社会人になって新入社員歓迎会でそうなった。それ以来一滴も飲んでいない。父は酒に弱かったというが、雑誌メディアとかいうヤクザな世界で飲んで強くなったという。が、その末期は素人目のおれが見ても単なるアルコール依存症であった。弟は母ほど弱くなく飲めないこともないが、酒自体あまり美味しいと思わず飲まない。代わりにかどうかたくさんタバコを吸う。おれはというと以下のとおりだ。

goldhead.hatenablog.com

父に、近いな。そしてこれも素人目のおれが見るところ、父はなんらかの精神疾患も持っており、おれから逆算すれば双極性障害ではないかと思う。というか、本で双極性障害(1型、2型両方)のエピソードを読んでいて、我が身のことより我が父のことに当てはまってしょうがないというところがあった。いやはや。

話を本に戻す。本書は『アルコール依存症になる人、ならない人』ではない。「酒乱」である。

……酒乱とは飲酒をしたときに飲みすぎて社会的な常識に照らして問題となるような公道をとっている状態、またはそういう行動をとる人のことを指しています。

 やったー、おれ、「酒乱」ではないなー。

……アルコール依存症だけど飲酒時に問題行動を起こさない酒乱とは言えない人(いわゆる「静かな」アルコール依存症)もいます。

うわーん、やっぱりそういうタイプというのもあるのかー。

でも、なんで酔おうとするんだろうね、……って、快感のためだ。

酒飲みには耳が痛いでしょうが、酒を飲んで酔うことはこのように何の努力も伴わずに快感という報酬を得ることなのだという認識を持たなければなりません。そして世の中そう甘くないというのは、この努力いらずの快感が「依存症」という怖ろしい病気と常に表裏一体の関係にあるということなのです。当然ですが報酬を得る正しいやり方は、そのために一所懸命努力するということです。

えー。そりゃあ、おっしゃることはごもっともだけれどよー、この無明の凡人、仕事だろうが趣味だろうがなんだろうが、「報酬」なんて滅多に受けられるもんじゃねえよ。そもそもよ、おれはこーんな小さな(適当に想像してください)ころから「努力」嫌いよ。半端ない怠けもんよ。そして、成功体験の受容体がずーっとすっからかんなんだよ。親にもだれにもあまりほめられず、あるいはほめられたとしてもほめられたという実感ってもんがねえんだ。なにかもっと高く、自分より上はない、完璧で、永遠なものを手に入れなきゃ気がすまねえんだよ。でも、努力が嫌いなんだよ。そのループだ。そして、そこに酒があって、それで快感を得てなにが悪い……とか言ってるから内臓の調子が悪くなるのですね、はい。あ、あと、おれが競馬をやるのは、馬券がビシッと当たったときに、この世が完璧なものになる一瞬があるからです。

ところで、おれは一人で酒を飲む。一緒に飲む友人がいないからだ。これはどうも、よくないらしい。ストレス解消のために一人で酒を飲むと、かえって飲酒時にその人の注意がストレッサーに集中してしまうかららしい。

一方、仲の良い友人と一緒に飲んだ場合は、その間はストレッサーから注意がそれていたためにストレスが解消されたと考えられる結果が観察されました。この現象は"attention-allocation model"と呼ばれ、これは要するに飲酒時に注意がどこへ向いているかということが、ストレスが解消されるかどうかに大きな影響を与えると解釈されます。なんとなく分かるような気がしますね。

いや、ほとんど人と飲んだことがねえからわかんねえ。「今・此処・自己」と唱えながらひたすら機械のようにハードリカーを割らずに流し込むのがおれのスタイル。

また一人で酒を飲むことがかえってストレスを増やす結果になったように、酒によるストレス解消はそのための条件が整わなければ逆効果になる恐れがあります。この際、一人で黙って酒を飲むというのは恐らく最悪のやり方と考えられます。

恐らく、最悪。というか、そもそも酒に逃げるな、という話なのだろうが。でもよ、たとえば自転車漕いでハイになってくるのって、自分の経験からいって、最低100kmくらい必要な気がするぜ。面倒だよな(というわけでおれのCOLNAGOはジャケットを引っ掛けるためのなにかになっています)。あと、ジョギングするにしても最低10kmとか、疲れるよな。ウォーキングにいたっては、あんまりハイにならないしな。やっぱりシャ……なんでもない。

「静かな」アルコール依存症とは、飲酒してもあまり問題行動を起こさず静かに飲む、しかし酒をやめることはできないという人のことを指す言葉です。酒を毎日静かに飲むワイン国ではこうしたアルコール依存症が多くいる可能性があります。「静かな」アルコール依存症は問題行動や犯罪などを犯して人に迷惑をかけることは少ないのですが、その人の人生の生産性、創造性ということを考えれば重大なマイナスになっていることが多いのです。始終酒ばかり飲んでいる人には、社会的に重大な仕事は任せられるはずもないわけです。また、いろいろな生活上のストレスに対してもすぐに酒に逃避する癖がつき、生活の質を向上させるということもできないでしょう。しかし、この「静かな」アルコール依存症については、本人がそれでいいと思っているならまあいいじゃないかという考えも否定することはできません。このあたりは個人の人生観にある程度は任される部分とも言えます。

 で、「酒乱」の本で見つけた、もっともおれに当てはまる部分が「乱」の逆である「静」だ。そして、おれの人生観からいくと、べつに生産性を高めたいと思ったことはないし、創造性など高尚なものは持ち合わせていないし、生活の質を向上させようなんて大層で大儀なことは考えちゃいない。どうせ人生のレールからはずれて、全身の関節という関節がはずれたような人間。妻も居なければ子もいない。社会の底辺を這い、年金では食っていけないことは確定しているので、その前に自死しなければいけないことが決まっている人間。これはもう、安楽死的に、そして安価に酒から快感を得てもいいんじゃないかと思うのだ。それでいいと思っているのだ。

とはいえ、その飲酒によって逆に気持ち悪くなるというのではまったくの本末転倒ゆえ、月火水木の断酒と金土日(日は午後5時まで)の飲酒というサイクルを試す所存。今日はピザの日(月に1度、そういうものがあるのです、おれ個人の)だったが、ピザと一緒にワインもビールもなしでなんともなかった。炭酸水、なければ水道水でいい。Amazonでまとめ買いした(そういうセールをやっていたので)ハードリカーの6つの瓶を目の前にしてもなんとも思わなかった。こうして夜が更けて、そこにスコッチがあっても飲まないもんね。これはおれが「摂食障害」と診断された、ある種の強迫性の持ち主だからかもしれない。

まあいい、ただ、問題は意味もなくひどい不安感に襲われることだ。そこは抗不安薬で乗り切ろう。自らの病を利用し、薬を利用し、そして何より酒を利用して、この実りのない人生に努力なしの報酬を与え続けよう。イエスとかいうやつが呪おうと知った話か。花も見せなければ、それ以前に実もつけぬ。静かに、風に吹かれるがままに、そういういちじくの木のように生きて、死のう。

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酒に弱い日本人が増えるよう「進化」 遺伝情報から判明:朝日新聞デジタル

 体内でのアルコール分解には、「ADH1B」と「ALDH2」という2種類の代謝酵素が関わる。それぞれの酵素には、働きが強いタイプと弱いタイプがあり、日本人ではADH1Bの75%、ALDH2の25%が弱いタイプ。一方、欧米人などは、大半が2種類ともに強いタイプをもつことが知られている。

 日本人2200人の全遺伝情報を解析すると、弱いタイプの酵素をつくる遺伝子のそばに、まれにしか見られない多数の変異が集まっていることが判明した。子孫に遺伝情報が受け継がれる際に、変異がこの遺伝子と共に失われずに蓄積してきたことを示しており、弱いタイプの酵素をもつことが有利に働いた証拠の一つとみられる。弱いタイプの酵素をもつ日本人は、過去100世代ほどかけて増えてきたこともわかったという。

 ……そうだ、この話と突き合わせようと思ってたけど、忘れてた! まあいいや! 日本人の鎌形赤血球症? ダーウィン進化は不思議やで。ちなみに、本書にはこうあった。

この下戸遺伝子多型は日本人・韓国人・中国人・台湾人などのアジア人において約半数の人が持っていますが、白色人種にはほとんどありません。