三十九歳にして髪を染めるのこと

齢三十九にして髪を染めた。

髪を染めたといっても、白髪染めではない。ブリーチである。明るくしたのである。

 

ギャツビー ナチュラルブリーチ 【HTRC5.1】

ギャツビー ナチュラルブリーチ 【HTRC5.1】

 

このところ、おれの頭は黒かった。白髪はまだ出てこない。師云、蔵頭白、海頭黒。おれはおれの髪が黒いと色を抜きたくなる。今はツーブロックでサイドが涼しいが、どうも髪が黒いと重くるっしい。もう髪の色を明るくする歳でもなかろうと、黒いままでいたのだが、このままでは夏の日差しに負けてしまう。そう思った。

そう思ったおれは薬局で男性用ブリーチを求めた。すると、そこにあるのは「この空箱をレジに持ってきてください云々」。万引き、されるのか? 男性用ブリーチ、もしくはメガメガブリーチは、万引き、されるのか? そして、中年であるところのおれは、夏のやんちゃな高校生が求めるようなものを求めるのか? おれの人生はいったいなんだったんだろう? そのような思いが去来する。荻生徂徠

しかし、おれはその屈辱に打ち克ち、ナチュラルブリーチを手に入れた。そして、土曜日の夕刻に、使った。使った結果、微妙な色合いになった。ナチュラル、といえばそうだろうが、もっと明るくしてもよかったように思えた。もっと明るくすれば、ここからさらに赤、あるいはピンクなどへの展望もあった。だが、ほとんど黒髪だったため、それほど抜けなかった。とはいえ、黒髪とはいえぬ色合いになった。本来なら写真の一枚でもアップするところだが、見たければ会いに来い、とでも言っておこう。

かくして、三十九歳、人生の半分をとうに越してしまったおっさんは、うぶな高校生のような髪の色に、左耳に三つのピアス、ハワイアンシャツでそこらをうろうろ、職質上等、いや、こんなのはそこらへんにごろごろしている。おれにないのは入れ墨くらい、夏になると隠しきれないバイブス、とはいえ、もう入れ墨を入れる歳でもないだろう。入れる金もないだろう。せいぜい、蚊に刺された足でも晒して、ずったらずったら歩きまわるだけなのさ。