十一月のゴキブリ

goldhead2004-11-11

 昨夜、帰宅して灯りをつける。ちゃぶ台の脚元に黒い影が走る。ゴキブリだ。近くにあったティッシュ・ペーパーの箱をちょっとつつく。走ってシステム・ベッドの方に逃げるが、それほど速くない。見回しても殺虫剤が見あたらない。俺はもう、殺すのも面倒に思ってそのままにした。そのままにして飯を作って食った。飯を食い終わって、ふとちゃぶ台の上の鏡を見ると、天井にさっきのやつがいるのが見えた。ベッドの上の天井だ。やつはもう一度姿を見せてしまった。俺は始末をつけなければならないと思い、台所の方から殺虫剤を見つけて持ってきた。離れたところから噴射する。少しは届いているはずなのに、反応はほとんどない。衣装掛けをどかして、近くから噴射する。がさごそと壁をつたって逃げる。その先は、押し入れの扉だった。二段になっている押し入れの上の方で、少し開いていたのだ。俺はさらに噴射して、やつが内側に行ったのを確認する。隙間から思い切り噴射して、扉を閉めた。
 その後、俺は下の押し入れから毛布を出した。たまに寒い明け方がある。その時、上からがさごそがさごそという音がした。俺は背筋が凍るような思いをした。
 俺が虫を嫌いなのは、虫が俺に危害を加えるからでなく、俺が虫に危害を加えるのが嫌だからだ。俺の虫に対する優しさの、そのひとかけらでも人に対して持ち合わせていれば、俺はもうちょっと笑いながら生きて行けたのかもしれない。