零細の悲哀『嘆きのピエタ』

 主人公は天涯孤独の借金取り。借金取りというよりは、保険金搾取人。小さな町工場を訪れては、負債を返しきれない工場主たちを障害者にしていく。そんな彼の前に、母親を名乗る人物が現れ……というお話。
 おれは零細企業勤めとして、300万円くらいで手足をもがれていくという情況を冷静に観られなかった。そういう怖さがあって、それはこの作品の大きな一面ではあるのだけれども、おれにとっては嫌な汗でしかなかった。怖ろしい怖ろしい。そう、300万円くらいで障害者にされたり死んでいかなければならないという世界、これは韓国に限った話じゃないだろう。その圧倒的に嫌なリアル。もちろん、「ピエタ」の意味するところの母と子というもの、あるいはもっと大きな罪と罰に関するなにか……キム・ギドクらしいといえばそうかもしれないそれもあった。それもあったが、町工場の嫌なリアルさに「うへぇ」となる。
 と、キム・ギドクだ。見終えたあとにキム・ギドク作品だと気づいた。おれはキム・ギドク好きで、だいたい8割は観ている。これもキム・ギドク作品だと知ってウィッシュリストに入れたと思うが、すっかり忘れていた。そんなことを忘れつつ観てもこれは傑作だった。いや、傑作というか、なんというか……嫌な夢を見そうな代物にほかならない。鶏やウサギやウナギが夢に出るかもしれない。工場の機械で片腕を失う夢を見るかもしれない。ああまったく。でも、そのくらい意識になにかぶっ刺してくるようなもんじゃないと、観た甲斐もないといったら言い過ぎか。こいつはそのくらいの代物だった。おしまい。
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おれのキム・ギドクブームは2008年ころらしい。