中国で鰻の養殖業を営むチェン。しかし、品質検査で水銀が検出されたことにより、韓国への輸出が禁止されてしまう。中国産の鰻の安全性を訴えるために、危険を冒し韓国に密入国するが、彼を待ち受けていたのは中国に対する強烈な差別、偏見、暴力。そして、彼の怒りがさらなる悲劇を招く…。
韓国映画『鰻の男』をみた。
……ということについて、気軽に書けない状況が生まれている。監督こそキム・ドンフという人だが、脚本、製作総指揮がキム・ギドクだからだ。
キム・ギドクはこないだ死んだ。キム・ギドクが映画撮影中にパワハラ、セクハラを行っていたことを告発されていたのは知っていた。しかし、それ以上の犯罪があったのではないかというのは、死後に知った。
①キム・ギドク(監督はつけない)の作品を逃さず見ていた時期のことを考えていた。日本の緩い報道を見て、日本では彼の性暴力が伝わってないんだと認識した。これを読んだ人がどう考えるか、には興味ない。「知る」ことは必要だと思うので、キム・ギドクが何をしたかを短く書く。特に映画に関わる https://t.co/ItuthoDK4P
— ヤン ヨンヒ 양영희 (@yangyonghi) 2020年12月13日
おれはこの一連のツイートを見て、初めてキム・ギドクの大きな犯罪の疑惑を知った。おそらく、それによって韓国から逃げていたことを知った。死後、韓国映画界からほとんど反応がなかったことを知った。
はたして、反社会的な行いをしたと推測される(一応、裁判で有罪判決を受けて下獄したわけでもないのでこう書く)クリエイターの作品をどう扱うべきなのだろうか。本人が死んでしまったあと、どうすればいいのだろうか。
おれはこのように書いた。
韓国キム・ギドク監督、コロナで死去 世界三大映画祭受賞の巨匠とセクハラ醜聞、本当の姿は? | カルチャー | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
- [韓国]
- [映画]
- [社会]
監督に敬意を一切表さずともただ作品だけが残ればいい。しかしあの『悪い男』(<a href="https://goldhead.hatenablog.com/entry/20080211/p2" target="_blank" rel="noopener nofollow">https://goldhead.hatenablog.com/entry/20080211/p2)が興行的に成功したほうだったとは。
2020/12/15 11:50
自分でも、苦しい物言いと思う。思うが、作品は作品なのだ。どうしたものか。しかも、これがたとえば違法薬物を使った、となれば、おれは「作品がすべてだよ」とか言って、平気な心でキム・ギドク作品を見たことであろう。
だが、キム・ギドク作品において、女性に対して暴力的なのは、おれは非常に苦手というか、やめてほしいよな、と思うのである。『悪い男』は嫌いな作品だ。
おれは、『悪い男』についてこう書いている。
……そしてこの『悪い男』、ぜんぜん乗ることができなかった。これには合わなかった。もしも『サマリア』、『うつせみ』、『春夏秋冬そして春』に先駆けてこれを観ていたら、『サマリア』、『うつせみ』、『春夏秋冬そして春』を観ることはなかったろう。
実のところ、それは今までの四作でも時折感じていたことだ。なんかやけに女性に対する暴力が軽く出てくる。そこにちょっとひくところがあった。これはキム・ギドク監督の感性なのか、あるいは韓国社会、韓国男性が持つ感覚なのかわからないが、少なくとも俺の持つ閾値とは違う、違和感を覚える。この映画にいたっては、その違和感が許容値を超えて、どうにも乗れなかった。
「ほらほら、おれはキム・ギドクの女性に対する扱いについて問題視してたんですよ」というアリバイを出すようでなさけないが、それでもまあそういう思いがあった。そして、実際に女性に対してしてはいけないことをしていたらしいということを知り、おれは困惑してしまった。
困惑した上で、おれがまだ見ていないキム・ギドク関連作品を見ておこうと思ってしまった。なぜなら、今後、キム・ギドク作品が見られなくなってしまう可能性があるからだ。その前に見ておこうということだ。べつにそれで責められるならそれでもいいだろう。
……と、なんて面倒くさいことをしてしまったんだよ、まったく。
で、ようやく『鰻の男』について語る。あらすじは上に書いたようなものだ。原題は『Made in China』という。ダンボール餃子だったか肉まんだったか、一時は日本でもMade in Chinaへの忌避感がものすごく強くなった時期もあった。もちろん、今でも「この価格差なら日本製を選ぶか」という意識は弱くないと思う。同時に、日本から見たら、Made in Koreaも下に見ている、危険視しているという実態もあると思う。あると思うというか、自分でも「やっぱりできることなら日本製がいいよな」という意識があるのは否めない。
まあ、日本の食べ物なら安心、と言ってられるかどうか知らんが。
まあ、そういうのもあって、おれはメキシコ産の鶏肉も平気で食うようになっているのだが。もちろん、安いからだ。
でもって、中韓関係ということになる。中国と韓国の関係、日本から一歩も出たことのないおれにはいまいちわからんかった。わからんかったが、韓国人の、それほど悪くない生活をしている人にとって、中国製の食品が嫌われているということも知った。ヤクザな世界でも、中国人が見下されているような風潮があるんじゃないかということを知った。むろん、映画の中の話ではあるが、「韓国でもそういう意識はあるのか」とくらいは思ってもいいだろう。
とはいえ、この『鰻の男』にしても2014年の作品である。その頃から現在2021年の間にも、中国はより一層発展し、進歩した。以前に比べても、中国産への忌避感は減っているかもしれない。もう、中国産食品を忌避するのが当たり前になってしまった、という可能性もあるが。それでももう、おれはでかい中国ブランドのテレビを平気で買ってしまっているし、食品は……おれの食生活であまり中国の食材が入ってくることはないのでなんとも言えないが。うーん、やっぱりちょっと避けるかな。
と、その「ちょっと避けるかな」が、人種差別とまではいかないまでも、偏見につながっているかもしらんよな、というのが『鰻の男』でもある。とはいえ、現実として鰻から水銀が検出されたら、それを食いたいとは思わない。それも当たり前だ。一方で、あるいは、韓国の川に放った鰻たちが死んでしまったのは、韓国の川も汚染されているということを表しているのかもしれない。日本でだって、悪いやつがなにをしているかわかったもんじゃない。
と、そんなところだ。そんなところを描けるのに、キム・ギドクは……というのは、書くべきではないのかもしれないが、思わず口にしてしまうところもある。まったく。
<°)))彡<°)))彡<°)))彡<°)))彡
<°)))彡<°)))彡<°)))彡<°)))彡
<°)))彡<°)))彡<°)))彡<°)))彡
上でTwitterでキム・ギドクを告発しているヤン・ヨンヒ監督の『かぞくのくに』も観ていた。