『悪い男』/監督:キム・ギドク

悪い男 [DVD]
 映画鑑賞四作連続でキム・ギドク。はっきりいって、あんまり映画見ない人間にとってこの密度は厳しい。観るにあたってややモチベーションが下がる要素といえる。
 ……そしてこの『悪い男』、ぜんぜん乗ることができなかった。これには合わなかった。もしも『サマリア』、『うつせみ』、『春夏秋冬そして春』に先駆けてこれを観ていたら、『サマリア』、『うつせみ』、『春夏秋冬そして春』を観ることはなかったろう。
 この映画に乗れなかったところの一番のところはどこかといえば、女性に対する暴力だ。いや、別に俺はフィクションですら女性への暴力を容認しないフェミニストとかそういったものではない。ただ、とにかく感情的にひくところがあった。
 実のところ、それは今までの四作でも時折感じていたことだ。なんかやけに女性に対する暴力が軽く出てくる。そこにちょっとひくところがあった。これはキム・ギドク監督の感性なのか、あるいは韓国社会、韓国男性が持つ感覚なのかわからないが、少なくとも俺の持つ閾値とは違う、違和感を覚える。この映画にいたっては、その違和感が許容値を超えて、どうにも乗れなかった。
 まあ、そもそも『悪い男』の映画なのだ。勧善懲悪物ではないし、それはわかる。そして、映画が勧善懲悪的でなくてはならないとも思わん。悪を描ききる、悪で描ききるのだって構わない。あるいは、付録インタビューで監督が語るように、悪と純粋な愛、聖と俗、清らかさと穢れの転倒、反転するところ、あるいは二面性を究極のところで描いて見せようというなら、ぜひ観てみたいと思う。が、その狙いが観念的なところ、発想的なところにとどまって、上滑りしている感が否めない。そういうものを描きたかったというのはわかるが、描かれていない。偉そうに言うが、俺はそう思ったのだ。
 というわけでこの映画、見どころというと、主演の男のギラギラした感じ、そして韓国のちょんの間みたいな風俗店の様子(どこまでリアルかは知らん)くらいなもの。そうだ、ユーモア、そこにどうも欠けていた。残念だった。でも、これが初期作品で、俺が気に入ったのは後の作品というのは救いだった。