『春夏秋冬そして春』/監督:キム・ギドク

春夏秋冬そして春 [DVD]
 映画鑑賞三作連続でキム・ギドク。はっきりいって、あんまり映画見ない人間にとってこの密度は厳しい。観るにあたってややモチベーションが下がる要素といえる。
 ……のだけれど、いや、この『春夏秋冬そして春』にもしびれた。予備知識まったくなしで観た(オンラインレンタルのリストに適当に放り込んでいたので)のだけれども、これまた先に観た『サマリア』、『うつせみ』とは違ったテイストで完成している。
 湖の真ん中にぽつんとたたずむ小さな寺、このシチュエーション、光景だけで満足。そして、小舟に描かれた天女(かな?)の絵の水面を進む絵に参ってしまう。
 この舞台となる山中の、日本のようでいて日本でなく、中国っぽいかといえばそうでもない、そうか、これが韓国か。東アジアとして重なる部分がどこかにあるだろう。
 そしてこの映画、実に東洋思想的だ。鈴木大拙の言うところの東洋的な見方に通じるものがあるように思える。ゼンノスピリットがある。単純に善悪を二元化させず、不二法門というかなんというか。老僧の稚児に対する戒めも、罪と罰ではなく、あくまで今、ここ、自己を問題にしているような。韓国というとキリスト教儒教かと思うが、これは見事に東洋的、仏教的だ。
 このあたり、西洋人などが目を丸くして、なんとはなしに引き寄せられるところかもしれない。そしてまた、この映画自体、過剰なまでの東洋趣味に溢れている。実に外連味のあるできばえで、どこかしら笑えてしまう。だいたいこの人の映画にはこういうところがあるように思える。単なる映像美やストーリーの奇想に留まらないところがいい。よくできたコントの一コマを観ているような気になるときすらある。
 と、いうわけで、監督本人まで出張ってくるこの作品、やや過剰な仏教臭や東洋趣味に嫌気する人もいるだろうけれど(とはいえ、決しておとなしい映画ではない。むしろ、「さすが軍人気質と言われるだけあるなぁ」というスパルタぶりも見られる)、俺は気にいった。あと、「夏」編の、頭の中精液詰まってる男子高校生みたいになった僧のけだものっぷりも必見(だろうか?)。ああそうか、なんか無修正版って書いてあったのは、あのシーンか。