安倍晋三元首相銃撃事件を描いた映画『REVOLUTION+1』をシネマ・ジャック&ベティで観る

足立正生の新作『REVOLUTION+1』を観るため、ジャック&ベティに行った。

……と書いてもピンとこない人も多いだろうから、タイトルのようになる。安倍元総理銃撃事件直後から制作が開始され、国葬儀の前には仮公開された例の映画である。

とはいえ、おれにとっては『幽閉者テロリスト』の足立正生の新作、ということになる。

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いや、『断食芸人』も観たけど、あれはおれにはわからんので。

で、本作、これな、1月4日暇にしていて、Twitterなど見ていたら、ジャック&ベティで足立監督の舞台挨拶があるの見てな、そのときはもう時間的に間に合わなくて。それでも、「この映画、たぶんやべえから配信とかされないよな。映画館で観ておかなきゃだめじゃねえの」ということで、本日足を運んだというわけ。

 

で、いかにも話題先行な本作だけど、内容はどうなの? となると、やっぱり粗さも目立つし、メッセージがストレート過ぎるほどストレートに語られたりして、そのあたりはそのあたりだなあ、と思う。

思うけれど、映画としてちゃんと目を離さず観られるんよ。上のメッセージ性みたいなのが嫌い、という人にはつらいかもしらんが。凶器の感じとかも急ごしらえには見えないくらいだし。いやはや。

それでもって、制作決定とか公開直後に言われていた「犯罪者を英雄視するとはけしからん」的なあたりはどうかっていうと、それがさ、その後のこの国の報道とか考えてみると、なんというか英雄視とまではいかないけれど、多くの人が容疑者の生い立ちや宗教二世の問題に関心を寄せ、統一教会と議員との関係が国政に大きな影響を与えたわけじゃん。いや、まだこの問題は収まっていないともいえる。そういうわけで、銃撃事件直後と、その後の統一教会問題のあとでは、ちょっとは先入観も変わるんじゃないかという気もする。

と、いうような現時点から見ると、何度も何度もテレビで流された容疑者の生い立ちストーリーとたいして変わらず、「あ、ニュースで見たわ」という再現ドラマを見るくらいの印象である。もちろん本作はドキュメンタリー映画ではないので、話はいろいろ脚色されているわけだが。統一教会と安倍元総理との関係追及に関しても、容疑者から見ればそうだったかもしれんし、そうでもなかったかもしれん(なにせまだ裁判すら始まっていない)とか、そういう感じ。

だからまあ、「勝手に容疑者の内心や家族の内心、行動を一方的に決めつけて作品にするなよ。だいたいそっちはフィクションで安倍晋三側は名前も映像もノンフィクションじゃないか」という批判はありうると思う。

思うけれど、なんというか、おれはまあ83歳の映画監督が瞬発力でこんだけ反応したのすげえなというほうが強い。むろん、「僕は、星になれるのか」は言うまでもなく岡本公三の「われわれ3人は、死んでオリオンの3つ星になろうと考えていた」から来ているものだろうし。……とか、思ったら、まったく直接的に触れていたのでさすが元日本赤軍だとか思ったり。

そんでもって、役者さんの演技というか、晩年期の若松組常連のタモト清嵐がすごかったな。なんかその、肉体の躍動というか、精神の爆発というか、そういうのがよかった。

あと、やっぱり風景がなんかいいところを選んでいるのと、音楽、そうだ、大友良英の音楽がやっぱりよい。『幽閉者』もよかったが、本作でも美しいメロディにノイズ。これが実に合っている。襲撃直前の主人公がイヤホンで音楽聴く(作品的にはたぶんブルーハーツだろう)あたりのシーンは実によかった。サントラとか出ないのか。

というわけで、ひっかかるところはひっかかる(女性の部屋の仏教的なイラストのポスターにAdobe Stockの番号が入ってたけど、あれ透かしじゃないよな?)、あまりにメッセージが直接的だろ(妹の台詞とか)みたいなのもあるが、それはそういう作風なのだし、もしも観られるなら今のうちに映画館で観ておいたらいいのではないかと俺は言う。とくに安倍元総理の熱心な支持者や統一教会の関係者にとっては許しがたい作品ではあろう。しかし、統一教会問題報道の洪水に一度溺れたわれわれならば、わりと客観的だな、と、客観的に観られるかもしれない。そして、映画作品としての見どころに出会えるかもしれないし、「これが作られたのが30年後でないのがすごい」ということにもなるだろう。

とはいえ、主題となった事件はまだ裁判すら始まっていない。この映画がまったく的はずれだったぜ、ということになるかもしれない。とはいえ、あらためて言うが、現時点で報道されている部分、そこから想像されている部分とは大きくはずれていないので、まあなんか言いたい人も、とにかく観てから言ってくれ。もちろん、チープだし、粗も目立つ。でもな、なんとも言い難い魅力みたいなもんがあるんだ。少なくともおれにはそうだった。それはああいう時代を中心で生き抜いてきた足立正生とか、あるいは若松孝二とか、その周辺の人たちだけが作れるものかもしれないなどとも思うが、それはわからない。

 

以上。