『受取人不明』/監督:キム・ギドク

受取人不明 [DVD]
 もう、キム・ギドクはしばらく観たくないと思っても、DMMから送りつけられる罠。ウィッシュリストの上の方に比較的新しい作品が多いので、下の方に溜まっているギドクが次々に。
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 さて、また監督以外の予備知識無しに観るキム・ギドク。これは1970年代が舞台。画面の感じも古めかしく、どこか『女学生ゲリラ』みてえだな、と思う。映画の冒頭の冒頭で、「この映画は動物の安全に配慮して撮影されています」とテロップが出てくる。何かと思ったら、犬を吊してバットでぶん殴る……職業の人が出てくる。どこか田舍の、米軍基地のある町。米兵の現地妻で、彼に去られ半ばきちがいになってしまった女(これが美しい)、その息子の混血児(最初、やけにドーランを塗って日焼けを演出してるのかと思ったら、黒人とのハーフという意味だった)、片目が白く濁っている少女、彼女に恋するいじめられっ子の絵描き見習い、朝鮮戦争の武勲だけを誇りに生きているようなその父親……、まあともかく全体的に貧しくて、やるせなくて、救いがたい。暗い映画だ、ともかく。深夜、テレビでたまたまやっているのを途中から見始めて、「いったいいつの映画だろうか?」などと思いながら目が離せなくなって、結局最後まで観てしまって、なんかモヤモヤと暗いものが残ってしまって寝不足、ってのがよく似合うタイプの映画だと思う。
 繰り返し米軍機が飛ぶカットが入る。米国、米軍、米軍人と韓国、韓国人。単に反米でもないという愛憎。あるいは、元軍人だけあって、兵士、兵士たちへのまなざしは、決して一方的な非難では終わらない。片目の少女をあれこれした彼はえらいことになるが。
 しかし、これを韓国人はどう観るのだろうか。あまり楽しくなる話ではない。他国人の俺が観てもそう思う。あるいは、怒り出す人がいるかもしれない。これの舞台が沖縄だったらどうだろうか。これだけの作品であれば、俺はあまり気にならないが、気にくわないと思う人もいるかもしれない。恥部をえぐるようなところがある。韓国内では人気があまりないというけれど、そのへんがあるのかどうか。

全員が隠したがる恥部をわざわざ誇張して表現した自分の映画を情けなく思う

http://www.chosunonline.com/article/20060822000031

 という発言が真意なのかどうかわからないが、こういうところがある。韓国人にとって、というよりも、人間にとっての恥部、社会にとっての暗部とかを見せつけるところがある。「貧しくても悲惨でも、そこから抜け出せる」でも、「貧しいけれど、幸せ」でもなく、「貧しくて悲惨で狂ってる」というのを、そのまま出してくるというか。そしてこの『受取人不明』の70%は自らの少年時代の実話だというけれども、そのパーセンテージはともかく、こういうのは自ら血を流して、臓物さらけ出すような痛みによって造られる、そうでしか造られないものじゃあなかろうか。貧しくても幸せ、とか、貧しくても頑張ろう、とかに当てはめないところ。人間社会はくそったれだ、というところ。
 じゃあ、そういう悲惨見本市なのかというと、しかし、それでも、どっかしらなにかしらの力があって、たとえばサドを読んで「でも、だから?」というふうにならん、単なる露悪に終わらないところがある。西原理恵子とか、あと、コーエン兄弟とかにもそういうところがあるようで、俺は好きなのだけれど、まあこの見方が正しいのかどうかはわからない(『悪い男』のどこに? って思うし、この映画にしたって……)。

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 ……一人の映画監督の作品をこれだけ観るのは初めてだろうか。