縮こまって引っ込んで出てこないレベルである『メビウス』(キム・ギドク)を観る

父・母・息子の3人が暮らす上流家庭。家族としての関係は冷え切っていた。ある日、近くに住む女との不貞に気づき、嫉妬に狂った妻は、夫の性器を切り取ろうとする。しかし、あえなく失敗し、矛先を息子へと向ける。凶行に出た後、妻は家を出ていき、夫と息子はとり残される。……

 「お、R-18? なんかエロいん? エロいんか?」とかいう半端な気持ちで観ない方がいい映画である。おれはこの映画を観ているあいだ、眉間にしわが寄りっぱなしで、口は不格好に歪みっぱなしという具合であった。顔面が疲れた。全身が疲れた。4DXで『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を体験したあとよりも疲れた。股間は縮み上がり、エロがどうという話では済まなかった。
 この映画をフロイト流にでも解釈してどうこうなんて一席ぶつこともできるだろうが、まあそれどころじゃない。ともかく男の股間に恐怖を与えてやまぬ映画である。頭じゃない、股間にくる。股間にくる、などというと「なんかエロいん?」という話になりがちだが、逆である。縮こまって引っ込んで出てこないレベルである。キム・ギドクみたいにえげつないものが撮れる天才に、こんなの撮らせちゃいけないってという具合である。
 「男の股間に」と書いた。主語が大きいかな? と思わないでもない。ひょっとしたらおれになにかコンプレックスがあるのかもしれない。でも、だ。このセリフ無しの無言劇の威力は結構な男を震え上がらせるように思えてならない。
 逆に、女性が観たらどうなんだろう? 女性がこれを観る男を見てどう思うんだろう? おれにはちょっと想像がつかない。股間にそれをぶら下げていない人間がどう感じるのかわからない。男は馬鹿だし、股間にぶら下がってるものにこだわり過ぎている、あるいは支配されすぎていると思うかもしれない。そうなのかもしれない。
 まあしかしなんだ、もう、痛い、実に痛い映画であった。冷え冷えとする映画であった。劇中に出てくるリボルバーは『アリラン』に出てきたやつかなー、とか考える暇はない。ちょっとたまには顔を歪みっぱなしにしてみるか、という男がいたら、ちょっと観てみりゃいい。おれにはそうとしか言えん。いやはや。

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