今日はおどろくくらい静かで、30分、いや、1時間くらい強い眠気に襲われて、襲われるがままになったりしていた。この調子では食い詰める。だからといってなにかしようという気にもなれない。生きているのに死んでいる。死んでいるのに生きているふりをしている。哲学的でないゾンビが、ゾンビ企業に行き、ゾンビアパートに戻る物語。言っておくが、おれはゾンビ映画に興味はない。山田はいつでもゾンビ。おれはいつでもゾンビ。
欲望が少ない。めっきり少ない。なにか欲しいものがあったはずだった。手に届かないと気付かされるばかりだった。おれはバイクに乗りたいと思った。だが、おれはバイクの免許を持っていない。原付はもういい。だからといって、教習所に通う金もない。時間は作れるのだろうが、作ろうという気力がない。そしてバイクを買う金がない。おれはAmazonで買った金属バットで、机の下から出てきたゾンビの頭を思い切り叩き潰す。両の眼球が黄土色の液体とともに飛び出した。ゾンビになにが見えているのかおれにはわからない。バイクがあればいいな、と思う。思うだけだ。強い眠気に襲われるがママ。襲われないのはパパ。新しいバットが欲しいんだ、パパ。
ペルーサが引退するという。おれはペルーサの妙なスケールの大きさが好きだった。とはいえ、今おれがペルーサと聞いて思い出すのは、あの札幌日経オープンのバンズームには自信があったのにな、ということだ。ルルーシュも引退する、バンズームもいつか引退する。おれの引退はいつだ? そもそもおれはなんの現役なんだ? 息を吸って息を吐く。ものを食ってものを吐く。いや、消化して排泄する。おれはあまり食ったものを吐かない。それはどうでもいい。とりあえず人生の現役だ。おれはゾンビじゃなかったんだね、パパ。
要するにおれに暴力が足りなくて困っている。立ち飲み屋の若い店主と、その店の前に駐車した引越し業者の罵り合い。おれは折りたたみ傘をしまいながら、ゆっくり眺めていた。いいぞ、もっとやれ、包丁を持って来い。ダンボールで応戦しろ。おまわり来い、街宣車来い、今日は文化体育館で日本共産党の演説会だ。レディス&ジェントルメン、ようこそ赤いゾンビ。おれは七生報国の鉢巻を巻いて、金属バット片手に会場に単騎突入する。ゲバ棒をはじき飛ばせ、ヘルメットをかち割れ。共産無双3。え、こいつら代々木じゃない? そうなの、ゾンビだったんだね、ママ。
それがわかったおれはすべての争いの終わりを所定の書類に記入して区役所に提出した。世界平和は受理されて、人間もゾンビもバンズームも平和に暮らした。ペルーサは北海道の放牧地でそんな夢を見る。