駄目な自分と「笑っていいとも!」

フジテレビ系「笑っていいとも!」が最終回を迎えた31日、スタジオのある東京・新宿アルタ前は約1万人が集結し、タモリフィーバーにわいた。

1万人超「タモさん」コール!!最後の“出勤”は異例の徒歩 (1/3ページ) - 芸能社会 - SANSPO.COM(サンスポ)

 中学1年生のころの英語の授業だったと思う。英語で時間をどう表すのか、という内容だった。ひと通り教師の説明が終わると、「なにか質問はあるか?」と皆に呼びかける。そのときおれは「森田一義アワー」の「アワー」はこの《hour》であるか?」と聞こうかと思った。タモリの一時間なのか、と。ふとそう疑問に思った。でも、結局聞かなかった。おれは授業中に積極的に挙手するタイプではない。
 「笑っていいとも!」は昼の番組だ。昼も昼、昼のどまんなかの生放送だ。小学校なり中学校なり高校なり、全日制のそれに通っていると、見られることのない番組だ。むろん、休日の増刊号はある。しかし、子供には基本的に見られない番組だ。これが社会人の話として、テレビのある職場、「いいとも」を流す職場がどれだけあるかはちょっとわからない。ただ、日本中の多くの人間が知っている、昼のど真ん中の番組は、「ギルガメッシュないと」より見るのがむずかしかった、と言えるかもしれない。むろん、「A女E女」よりも。
 しかしおれは、ある程度「いいとも!」を見ていたガキだった。低学年のころはよく風邪をひいて学校を休んでいた。そして、小学生の終わりのころは冬休みより長く、続けて休んでいた。不登校といっていい。中学受験があるから、という理由で親も甘かった。学校に友達はいなくなっていた。おれは後ろめたさとともに、不登校ライフを謳歌していた。お昼休みはウキウキウォッチングだった。そのころどんなレギュラーがいたのだとか、そんなことは覚えていない。ただ、多くの小学生よりはいくらかウキウキだった可能性がある。そんな子供にいいトゥモローは訪れない。
 二度目のウキウキウォッチングは大学をなし崩し的に中退したころだった。そのころはインターネットもあって、テレホーダイによって昼夜逆転したおれは、夜明けとともに寝て、昼ごろに起きるような生活を送っていた。そのときもお昼休みはウキウキウォッチングだったろうか。むしろ、小堺一機をよく見ていたような気がする。お昼休みはまだ寝ていたかもしれない。あまりウキウキではなかったかもしれない。ただ、「いいとも!」を見られる人間だったし、おもしろいレギュラーの日は見ていたかもしれない。記憶に無い。いずれにせよ、そんな人間にいいトゥモローは訪れない。
 おれの「笑っていいとも!」の記憶は、世間に背いて一人で家にいるときの記憶と結びついている。人にとっては、風邪で学校を休んだ日と強く結びついているかもしれない。お昼休みのウキウキが、そうウキウキでもないなにかと結びついているかもしれない。それも悪くない。そのテンションにそれにタモリはうってつけともいえる。たぶん。
 「笑っていいとも!」が終わったからこんな話をしている。終わらなかったらとくに話すことはない。この職場にテレビはない。増刊号も見ない。ただ、終わるとなったらなにかソワソワして、昼の最終回と夜のスペシャルを録画予約した。夜のスペシャルは冒頭吉永小百合部分の途中からかじりつくように見た。タモリ明石家さんまの会話はずっと聴いていてもよかった。さんまが辞めた理由はその当時も話題になったものと記憶する。もったいないなぁと思った覚えがある。
 そして、ダウンタウンウッチャンナンチャンとんねるず爆笑問題ナインティナインが一つの舞台に! うまくいくわきゃあないんだ、なし崩し的に出てきて。それでも、おれが子供のころから(爆笑問題、ナイナイはちと後だが)、それぞれにそれぞれのお笑いに、流行に、夢中になってきた面子が一同に会する。これはインパクトがあった。プロレスの団体を超えたなにか、のようななにかかもしれないと思った。録画したものをあとからまた見なおした。結局、グダグダになってしまった。うまくいくわきゃあないんだ、あんなに主菜ばかり並べても。それでもおれは嬉しかった。こういう組み合わせが見られるのも、「いいとも!」ならではだ、と思った。タモリが偉大なのかどうか知らない。いや、偉大なのだ、きっと。
 その後も番組はやや精彩を欠いた。そんなにサヨナラのスピーチはいらないだろう。むしろ、さっきの連中に一組ずつスピーチさせろ、などとは思った。あるいは、なにかコーナーでもやらせりゃいいじゃないか。今、「いいとも!」でどんなコーナーがあるか知らないが……。
 ああ、ともかく「いいとも!」は終わってしまった。なにか書いておかずにはおられない。今後おれが順当に無職になっても、昼に「いいとも!」はやっていない。それはどこか悲しい話だ。なにせ無職だ。いや、おれの無職はどうでもいい。お昼の、本当は見てはいけない時間にやっている、どこか後ろめたいあのアワー、あれがなくなってしまった。おれはあまりウキウキではない。そして、いいトゥモローが来る気もしない。まったく。

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タモリだよ!

タモリだよ!

↑昼の方でたけしが「似非インテリに〜」と茶化していたのはこのあたりのことだろうか。この本は父の書棚にあった覚えがある。未読だが。