グランツーリスモ4/フォード・マスタング

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 車のフロントマスクを顔に喩えるのは、広く理解されるところだろう。そして、俺の好きな顔は「悪そうな顔」「いかつい顔」「機械的な顔」だ。BMWのパクリと言われていたそうだが、三菱のギャラン/レグナムの顔なんかが好きなのだ。そして、上に写真を出したフォード・マスタングの新型。ごつくていい。真ん中の馬のエンブレムもいい。実にマッスルじゃないですか。
 しかし、自分が「フォード・マスタング」の文字を見てまず思い浮かべるのは、マッスルとは程遠い歌手が歌う、ある歌である。それは、ジェーン・バーキンの「フォード・ムスタング*1だ。下に和訳を引用しよう。

みんな、気持ちの中で作り上げている
フォード・ムスタング
そして、バン! プラタナスを抱き締める
左に‘ムス’、右に‘タング’
左と、右

 とにかく「左に‘ムス’、右に‘タング’」だ。この歌を聴き、歌詞を見て以来、俺はマスタングムスタング)の字面を見るたびに、右と左に分ける癖がついてしまったのだ。なんということだろう。しかし、悪いのはジェーン・バーキンじゃない、作詞したセルジュ・ゲンスブールだ。くそ、セルジュめ。
 しかしなんだ、ゲンスブールは「左に‘ムス’、右に‘タング’」と書けばジェーン・バーキンとセックスできる。その一方で我々にできるのは「Je t'aime moe non plus」のエロボイスを聞いて‘マス’をかくくらいである。凡人の人生とは「哀しみの影」に追われて、いつしか終わってしまうだけのものなのか。
 ちなみにこれらの曲はJane Birkin「the best of Jane Birkin」(ASIN:B00006HBCK)にまとめて入ってる。これは二十曲も入っててお買い得なアルバムだ。そういえば、これを買ったのはずいぶんと前だけれど、一つ驚いたことがあった。「目を閉じて」というデュエット曲で、一緒に歌っているのがsuedeのBrett Andersonなのだ。いや、いけないいけない、スウェードは休止したのだ。ザ・ティアーズのブレッド・アンダーソンさんだ。これには腰を抜かすほど驚いた。まさかこんなところでお会いするとは、という感じだ。解説によると、エイズ基金のためのコンピレーション・アルバムのために歌った曲という。続いてこうあった。「60年代のフランスのミューズは、90年代のイギリスのロック・キッズにとってまさに憧れの女神なのかもしれない」。……やはりブレット兄さんも、「クソ、セルジュめ」と言いながら‘マス’の方を? いやいや、そんなことはあるまい、「My Jane come to my slum for an hour...」*2と想像の翼を広げ、創作をするのである。だから、ジェーン・バーキンとデュエットができる。我々凡人とは縁遠い神々の国の物語だ。

*1:ゲームの方は「マ」だが、歌詞カードを見ると「ム」だった。「マ・クベ」が「ム・クベ」では意味がわからないが、こちらはどちらでもいいだろう。

*2:「heroine」ではJaneでなくMarilyn