工作船


 一昨日の夜だったか、ドラマ『海猿』の最終回を見ていて(最終回だけ見る悪い癖があるのだ)、あることを思い出した。工作船らしきものに機銃をぶっ放すシーン、そのモデルになったであろう例の船の実物をこないだ見たじゃないか、と。そう、横浜はみなとみらいにある、海上保安庁の「工作船展示館」だ(id:goldhead:20050827#p1)。そういえば、あの館内にも『海猿』のポスターがばしばし貼られていたっけ。そうだ、そうだった。日記に「稿を改める」などと書いておいて、すっかり忘れていた。七十枚近く写真も撮ったし、もったいないから暇を見てメモをしていこう。断っておくが、政治的な主張は無く、おそらくは諸々の「物」に関するメモになるだろう。

 最初に取り上げなくてはいけないのは、船そのものだろう。何はともあれ、とにかくこれが一番の驚きだった。この、大きさが。あの海上保安庁の船vs工作船の戦闘はさんざん見たけれど、やはり距離のあるこちらの船からの、しかも暗視映像だったりするので、ここまで大きな船という印象は全くなかったのだ。
 大きさの次に印象深いのは、そのボロさだ。自爆した船がピカピカなはずはないが、それでもそういったダメージの無い箇所に関しても、相当な古さを感じる。剥げた塗装に錆び、錆び、錆び。一種の廃墟、廃物の趣がある。そういえば、これを見上げた老人が「こんなオンボロ船に苦戦してるんだから、海軍も情けねぇなぁ」と冗談を言っていたっけ。しかし、いかにオンボロでも大きい。これは実物を見てはっきりと実感できることである。これがさんざん武装して、たくさんテロリストを乗せているのだから、これはもう「工作」という言葉と乖離してるんじゃないかって気にすらなる。いやはや。
 一方、実感と呼べるのかどうかわからないもやもやしたものもあった。すなわち、ここで北朝鮮工作員が自爆して死んだわけである。すなわち、これは死に場所なのだ。いや、場所は海の上だった。だからこれは、一体なんなのだろう。それを考えるとやけに生々しいもののような気もするが、やはりこの廃墟のような船はいつのものだかもわからないような、静かな禍々しさを有しているだけなのであった。