『女王天使』グレッグ・ベア

女王天使〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

女王天使〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

女王天使〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

21世紀なかば、ナノテク技術の飛躍的発展と人格矯正の義務化によって、ついに人類は地球に疑似ユートピア社会を形成するにいたった。おりしもAI搭載の無人探査機が返送するアルファ・ケンタウリ探査報告に沸く巨大都市ロスエンジェルスで、ありうべからざる凶悪犯罪が発生した。高名な詩人が8人の弟子を惨殺、謎の失踪をとげたのだ。特命を受けたLA公安局生え抜きの女性捜査官、マリアは事件の捜査にのりだすが…。

 上下二巻にわたる大作。『ブラッド・ミュージック』のグレッグ・ベア。一つの殺人事件、それを巡る三つの人間模様、そしてアルファ・ケンタウリを巡る一つの人工知能と、その地球上シミュレーションとその創造者と。これが絡み合いそうで絡まず、絡んでいないようで絡みながらも、物語は進んでいく。
 いったん、読書が途絶えた。上巻から下巻へ。そのブリッジでいったん読書スピードが途絶えた。冗長さは否めない。一つの謎に収縮していく話ではない。この四つの物語が、とくにアルファ・ケンタウリまでもが、もっとズバリ繋がってみせるくらいのアクロバットは期待したかった。無茶か。しかし、下巻に入って「おや?」と思わせる疑問も、そうたいしたことのない謎解きで終わってしまい。もちろん、そうさせた者の動機について深く考えろ、とかそういう話なのやもしれぬが。
 ヒスパニオラという架空の国。ブードゥー。ロア(馬)、聞きおぼえ、そうだ、ウィリアム・ギブスンか。サイバーパンクとブードゥーには通じるところがあるのか、使いやすいのか。攻殻機動隊では神道を絡めていたっけ。そうだ、この話のこの主人公、「変容者」のマリア、完全に美しい黒人の姿を手に入れた搜査官、このあたりは士郎正宗っぽい絵を頭に思い浮かべてぴったりの印象がある。
 ほかにもう一つ、頭に思い浮かべたもの。他者の精神世界へのダイブ。「国」への訪れ。これってもう、村上春樹世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』だって思った。もうちょっと、このダイブを描いて欲しかったようにも思う。
 そうだ、なんというか、幕の内弁当的であって、フルコースではないな。どうせなら、フルコースで食わせてくれ。あるいは、それぞれの単品で食わせてくれ。そういう感想だ。もちろん、美味しくなかったら、そんな注文は出てこないのだ。そういうことなんだ。

  • http://d.hatena.ne.jp/goldhead/20050802#p3……『ブラッドミュージック』の感想。えらくほめている。衝撃を受けている。が、なんと俺は「いまいちだな」と思った『スキズマトリックス』の方をよく覚えており、こっちに関する詳細がスコーンと抜け落ちてる。変な話だが。