東京裁判見学

議会場は大学の大教室のようだ。八角形をしていて、正面というものがない。どこに座ってもいいらしい。ところどころの席には、赤や緑の古いランプがついている。そこには被告が座るのだ。被告の真横というのは、なんとなく気が引ける。一番外周にあるひときわ立派な椅子に座る権利もある。が、これは外国の来賓か、裁く側の人間のものかもしれない。
ヒンデンブルクはどこかに行ってしまった。俺は前(中心)過ぎず、外延過ぎずという長椅子を選び、通路側から二番目あたりに腰をおろす。一応右側を塞がず、でも他の席に行けというアピールだ。左の方は、三つか四つ間隔を空けて、不細工な女が座っている。酷く残念に思うが、まだ可愛い女の子が空いた席に来る可能性もある、そう思い直す。
どうやら今日は実際に裁判が行われるようだ。あの有名な本人たちが来るのか。ならば一番外側の一番近くにいるべきだった! いや、しかし、この空間の構成上、真ん中に近い方が何人もの顔が見られるかもしれない。そんなことを考えていると、被告たちが入ってくる。くたびれた軍服を着ている。東条英機だ。これが東条か。思っていたよりも、丸く、そしてがっしりとしている。さすがに、威圧感がある。しかし、何よりも、青ざめて、あるいは土気色の、死人のような顔色が怖い。ちょっと見ていられない。東条は俺の右手の方の席に、議会場の中心を見るように座る。こちらを見る形になる。俺の正面やや右には、松井石根がこちらを向いて座った。東条そっくりだ。見分けがつかない。
俺は、せっかくの機会なので、彼らのメモを、詳細に、細かく取ろうと思う。下手くそな似顔絵もつけようと思う。しかし、安っぽい長机は、すぐに前方にずれて行く。左を見れば、さっきの不細工が突っ伏して寝ていて、そのせいで机がずれるのだ。
さんざん待たされる。そういうものなのだろう。が、やがて白人たちが入ってくる。教師が、今日は特別に裁判を見学できるのだと言う。俺は一瞬、時系列がおかしいのではないかと思う。が、なんだかそれは考えてはいけないことのように思えて、すぐに考えてを捨てる。右側を見ると東条、顔色はよくなっている。ただ、机に片肘をつけ、ひどくうんざりしているようだった。軍服の襟のボタンもだらしなく外れて、この上なく疲れているようだった。
左後ろの方で、カーキ色の軍服を着たアメリカの軍人が挨拶を始める。