ヒトラーの棺

ヒトラーの棺は四人がかりで担ぎ上げてられていた。荘厳に着飾った兵隊の列。議会の扉は開かれ、重々しい葬送曲が流れる。だが、列は動かない。棺を担ぐ正装した兵士が、わずかに揺れる。列の向こうの親衛隊が苛立っている。手前では老ヒンデンブルクが、杖をつき、懐中時計を片手に目をつむっている。俺は、柱のかげに半分身を隠しながら、まさか自分が先頭で入る手筈ではないよな? と不安になる。こんな重大な場で、なんで進行役がいないんだ。そりゃ確かにこの面子を集めて予行練習などできないが……。と、思うと、老ヒンデンブルクがゆっくりと歩き始める。安堵の空気が流れる。俺は、横にいた議長と一瞬譲り合ったのち、二番目に議会場へ入る。しかし、どこに座っていいかわからない。