私と私の青春とときメモと

 パチスロに用はないんだ、ときメモに用があるんだ、いや、追憶の中の俺とときメモが、俺を呼んでいるんだ、俺はそいつらと、にこやかに話し合うことができるのかどうか、コミュニケーションを試してみようか……、なんだ、なんていうことはない、なんだってことはない、その俺と今の俺はそんなに大差ないのだ、一緒になって、ときめきメモリアルに叩きのめされる、打ちのめされる、フルボッコ、毒薬、劇薬、やばいって。S君から借りたときメモ、彼は今おもえば今どきのオタクに近かった、先駆け的な存在だったかもしれない、エヴァより前の時代、ギャルゲーというものはまだまだ少なかった、彼にとっては布教だったのかどうか、今でも覚えている、透明の、少しくたびれたCDケースに入ったときメモ、ピンク色の盤面。S君はこう言った、「これは限定版だから箱は貸せないんだ」、スネ夫のテーマは流れない、いいやつだ。俺は世を忍んで、家族の、弟の目に絶対に触れないように、おそるおそる灰色のプレステにカチリとはめ込んだときメモ。ボンッ! 俺の脳はどのように弾けたのか、まず、脳味噌をかき集めて確認しなければいけなかった。俺が俺の杏仁豆腐みたいなぷるぷるした脳を慎重に拾い上げている間、あのテーマソングが、オルゴール風の音色が、俺の頭蓋骨の内側の、たぶん一番おいしいだしの取れるあたりにこびりついたのだ。俺はすぐにS君にときメモを返し、俺のときメモを買ったのだ、どこで買ったのか、世を忍んだのだ、覚えてはいない。そうだ、今思い出した、俺はときメモを買った。S君にはずいぶん長く借りていたような気がしていたのだが、それは模造記憶だった。ぜんぶ嘘だった。俺が中高一貫男子校に通っていたのも、人並み以上にスケベで、ただひたすら悶々と過ごしていたのを、共学に進んだ人たちの栄光を恨めしく思って狂いそうになったり、一方で、もしもお前がそんなところにいたとしても、恋愛の競争で戦えるのか、チビのお前がというような冷静な声もあって、エロ本を買い、ときに同級生に欲情したりしていたのも、いっさいは嘘だった、朝日奈さん、朝日奈さん、そうだよね? 朝日奈さん。俺はかなり誠実な人間だから、人間だから、好きになった女の人を裏切るのは苦手だから、たまたま最初にそうなってしまった世界をクリアデータとしてしまい込んで、さあ次と言うとき、やはり平行世界? 異次元? 起こらなかった歴史? 上書きされた世界で、その彼女も存在しているというのに、また別の人と結ばれるようなことに抵抗がある。だから俺は、ずいぶんときメモもやったような気がするし、クリアというようなこともいくつかしたような気もするが、どうしてもメーン・ヒロインの藤崎詩織森笠繁、そのあたりはあまり記憶にないというか、おそらくは諦めてしまったようにも思う、2とか3は知らん、何度も死ぬほど俺はマゾではない。なので、俺は熱心な熱狂的なすごいときメモ好きではないのかもしれない、しれないが、ときメモが俺に負わせた傷の大きさはかなり計り知れぬ。いろいろのゲームのいろいろの追憶があって、どれだけ自分の人生の時間を費やしたかわからぬものもあるが、ある意味ではときメモが俺に負わせて傷の大きさはかなり計り知れぬ。なぜならば、俺は、ときメモのなかに、俺の人生に、俺の高校生活にないすべてを見たからだ。ここまで俺にないものを凝縮して、固めて、文化祭、精製して、結晶のようになって、運動会、それを俺はごくりと飲み込んで、藤原薬子の玉を飲み込んだ高丘親王みたいに、なんというか、ずっと喉の奥にあるような、もう、失われてしまった。だめだ、俺にないもののすべて、それは俺のすべてよりもでかくて、それを煮込んだ、三日三晩、十月十日、一十三十一煮込んだ、煮込みすぎた、煮詰まった、グツグツの、煮える俺の俺にないすべてのものの、飲み干せぬもの、バレンタイン・デー、その巨大な、巨大な甘さ、甘いもの、はかないもの、切ないもの、好きとか、嫌いとか、恋愛とか、ときめきとか、メモリアルとか、俺を徹底的に打ちつけ、痺れさせ、頭をおかしくさせたもの、そんなものが、ときメモであって、俺は、俺は、俺は。俺は、これを萌えとか、恋愛シミュレーションとか、ギャルゲーの範疇で考えられぬ、ピンクの盤面、藤崎詩織、もっと俺にとっては恐ろしい何かだ。歩まなかった人生の、俺の願望の、希望の、妄想の、嫉妬の、空想の、それを塗り固めて、安っぽくも見える色合いをまぶせて、できたような、反対世界の俺、さかしまの俺、人生、起こらなかった歴史、起こらなさすぎた歴史があって、ユービック・スプレーを使ったらどうなるのか、俺にもわからないような、そんな世界全部が、日輪となって俺の口の中に飛び込んできて、俺はまだそれを吐き出せないでいるのだし、ちりちりと脳を焼くように、青春に、恋愛に、射精ではない、快感でもない、年上の美しい女との関係でもない、そういったもの、輝けるもの、それに対する、もう絶対に得られないものについて、俺の今のところの一回分の人生では受け容れられぬ大きさのあるものの、その前に、俺は卑小で、膝を屈し、明るすぎて目を明けてもいられない、それでも、脳の中に違和感、のどにひっかかるもの、吐き出せぬもの、ああ、俺は俺の起こらなかった過去に向かって歩いても、埒は開かないのだ、内も、外も、百頭の馬が走り、俺は同じ場所を、ぐるぐると、気の狂った動物園の動物みたいに回って、これなら、まだ未来に向かって、反吐の出るような未来に向かった方がマシだとでもいうように、いや、俺は未来なんて嫌いだ、バターになるまで、回ってやろう、回るしかないんだ……。


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 だから俺は、こうして、ラブプラスが来るのを待っている。これからが、本当の天国、さようなら、みなさん、さようなら!