ほとんど読み飛ばしたけど『免疫・「自己」と「非自己」の科学』

免疫・「自己」と「非自己」の科学 (NHKブックス)

免疫・「自己」と「非自己」の科学 (NHKブックス)

我々を、伝染病などの病から守る「免疫」。免疫は、「自己」と「自己ならざるもの=非自己」を識別し、身体の「自己」を監視・維持する機構であるが、アレルギーや自己免疫疾患、がん、エイズなどからは、「自己」と「非自己」の交差する、免疫のもう一つの顔が見えてくる。免疫学の基本を分かりやすく解説しながら、高次生命機構としてのヒトを理解するための超システムとしての免疫系の働きにまで着目する。免疫学の大家による、はじめての免疫学の入門書。

 というわけで、タイトルに偽りなく「科学」の本なのであって、インフルエンザに人体がどう対応するかとか、そのような機序についてどういう科学者がどのように解明してきたか、そしてまだまだわからん課題についてなどなどが記されている。著者自身、10年ていどは大筋を書き換えなくてもいいように、と言ってるし、まあ入門書なのだろう。最新の研究、発見、知見の意味で賞味期限がきているかどうかはわからんが。
 で、なんというか、以前『生命の意味論』というこの著者の本を読んでいたので、なにやらなんとなく聞いたような話でもあって、いや、もちろん理科のテストになったら赤点くらいなもんだけど、まあべつに学生でもねえし、検索のきっかけや連想のキーワードをぼんやりおさえときゃいいだろ、みてえなところで。
 しかしまあ、やはり俺の関心はといえばこの著者のいうところの超システムとしての人間、そして、それが人間の言語、文化、社会、都市、政治にも通じてるみたいな、免疫を出発点として広がるコスモロジーみたいなところであって、それについては最後に少々触れているだけ。いや、わかってたけど、他の本が貸出中だったので。
 でもなんだ、なんかこう、人類が宇宙に行って未知のなんかと遭遇しても対応できそうな組み合わせを作り出せる免疫のシステムとか、半分異物である胎児を「非自己」と認識させないために母胎がなんか工夫せざるをえないとか、そのあたりの話は面白かったけどね。
 で、超システムの話に戻るけど、こんなんだと著者は言ってて。

自己生成的
自己多様化
自己組織化
自己適応
閉鎖性と開放性
自己言及
自己決定

 あれ、P.K.ディックの『ヴァリス』だっけ。違うか。まあそんなの。そう、生命は卵割から始まり、自己多様化して形になっていって、情報伝達物質とその受容体みたいに組織化され、ある細胞は死に(アポトーシスとかいうのか?)、あるものは適応する。適応ばかり残ると自己充足で閉鎖構造になるわけだけど、生命は必ず外部からの情報を受け取らざるを得ず、内部に取り込むと今度は外部に開かれたアンテナとして用いられたりする。

 こうして成立した「超システム」は、遺伝的に前もって決定されていたシナリオ通りに動くわけではない。さまざまな環境条件や偶然性を取り入れながら、時間的な記憶を持った創発的なシステムとして、個性に富んだ行動様式を自ら作り出してゆく(自己言及と自己決定)。
 超システムは、決められた目的のために作り出されたものではなく、また規定の目的を遂行するために働くものでもない。目的そのものを自らつくり出してゆく、自己目的化したシステムである。記憶に依存した歴史性を持ち、自己言及的に成立する超システムの行動様式は、当然著しい多様性と個別性に特徴づけられるはずである。

 と。俺などがついつい思い込みがちなのは、なにかこう遺伝やそれによって形作られた脳という器官、そのあたりが圧倒的なものであるし、逆にそれさえどうにかなれば……というわりあい狭い道なのである。このあたり、著者が言うように、

近代医療は、分子機械としての人間に、工学的に介入するようになった

 結果、

医師は、循環系とか脳神経系などのシステムを取り扱う専門的なエンジニアとなり、システムを超えた人間としての患者を診ることことができなくなったようにも思われる。

 というあたりを内面化しすぎているのかもしらん。専門的なエンジニアとしての知識もないのに、車のエンジンの調子がおかしいって思いこんで、そこさえ修理すればまともに走るようになるというような思い込み。まあしかし、自分についてはいくら他人ごとのように言及してみても、内心の、この認識というか認知というか、そのへんは簡単に変わったりはしねえよな。
 まあともかく、俺が興味あんのはやはり超システム論だ。なんというか、身体→社会→宇宙みたいなところ、あるいは極小の免疫システムから宇宙まで、あるいは文化までなにか一気通貫するものがあるというような、なにかフラクタルになっているような発想というのにはえらく惹かれるところがある。が、一方で、なんかそれって、下手な譬え話に堕しやすいあたりでもあるだろうし、完全に信仰の領域に行っちゃうような場合もあるだろう。そんでも、なんかあるんじゃねえかって、わりあいそんなことを考えたりもしている。

都市のイコノロジー―人間の空間

都市のイコノロジー―人間の空間

 身体→都市→宇宙みたいなところから考えて都市を作るとかいうのは、古代からやってきたことで。しかし、この現代のスプロールが広がったりしている現状、これはなんの形なのかね。
生命の意味論

生命の意味論

免疫の意味論

免疫の意味論

ヴァリス (創元推理文庫)

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